先日数回に渡ってお送りしたリナルディー・シングス(スティーブ・リナルディー)へのインタビューに続き、今回から彼が所属するタンジェリン・レコードのクリス・ハント氏へのインタビューを掲載します。 Tang CD1 The Best Of The Jetset / The Jetset タンジェリンというと、言うまでもなくジェットセットもしくはポール・ベヴォワーのイメージが強い訳ですが、90年代におけるその歩みを振り返ってみれば、いわゆる英国ネオモッドへの理解の裾野をひろげるのに貢献した良質レーベルのひとつとも言えると思います。つまり、このレーベルがモッドのみならず60年代音楽や良質なブリティッシュポップへの愛に溢れた80年代のアーティストを深い目配りで紹介したことによって、80年代の英国ネオモッドに、たとえば(XTCらに代表される牧歌的な)英国サイケデリックリバイバルや、(90'sに再評価が進んだ)英米パワーポップ、そしていわゆる80年代の英国ギターポップetc...これら80年代の同時代の音楽とつながりがあった事、共鳴していた事がわかりやすく示されたと思うのです。個人的には、80年代はそういった動向がなかなか日本には伝わって来なかったので、このレーベルの80年代の「ミッシング・リンク」を埋めるかのような活動は非常に興味深く、私がpenelopesで2ndアルバムを出した時には(その感謝の気持ちも込めて)思わずCDを送ったものでした(ベヴォワー氏からおほめの言葉をいただいた時は嬉しかった。その後は時折やり取りをするようになりましたしね。96年秋に始めた私自身のレーベル、ボードヴィルパークがジェットセットのアルバムタイトルから来ている事の意味も、わかっていただけるかと)。 まあそのあたりのリリースのセレクトはもちろん、ベヴォワー氏の好みも大いに反映されていたとは思いますので、ここではあまり突っ込んだ質問はしませんでしたが、このレーベルの「モッド」サイドを最も握っていたと見られるハント氏、色々と興味深い話がきけました。 では、どうぞ御覧下さい。 About Tangerine Records 「タンジェリン・レコードについて」 Tang CD2 The Happiest Days Of Your LIfe / Paul Bevoir 1.タンジェリン・レコードは、いつ、どのようにして設立されたんですか? タンジェリン・レコードは1992年にジョン・アシュワース、ポール・ベヴォワー、そして僕(クリス・ハント)によって設立された。ジェットセットのファンとして、ジョン・アシュワースが彼等の作品をはじめてCDで出すことに夢中でね、コンピレーションを出すことを提案して来たんだ。僕はジェットセットの右腕であり、バイオグラファーでありそして宣伝担当だったから、ポールが僕に、スリーブノートで関わり、アルバムをレビューしてもらう手助けをすることを依頼して来た。その1年かそれぐらい前にスモールタウン・パレード(ポールの新バンド)の3枚目のシングルのキャンペーンをしていて、それがすごくうまく行ってたから、ジェットセットのコンピでいくつか良いレビューをもらえるんじゃないかと期待が持てたんだね。レーベルはまあそのリリースから大きくなって行った訳だけど、本質的には最初の年はジョン・アシュワースのレーベルで、ポールと僕が濃密に関わる、という感じだった。その後準備を整え、我々3人がパートナーとなったんだ。 2.最初、何かコンセプトとか理想のようなものはありましたか? とにかく僕らがCDになって欲しいと思うレコードを求めていた、そうすれば自分たちだけで聴けるからね。思い出して欲しいんだけど、当時はまだインディーシーンにはCDというものが大きく広まってはいなかった。そして他の誰も昔のモッドやサイケデリック、それにパワーポップの音源を再発していなかった。だから我々自身にとってのマーケットというものがしばらくはあったんだ。僕ら他のレーベルよりもそれぞれのCDに、より自分達の努力を注ぎ込むことに誇りを持ってたよ。他のレーベルがくよくよ悩んでるあいだに、僕らはたくさんの時間をデザインに費やし、たくさんの情報が詰まったスリーブノートの収まったブックレットをCDにセットしていった。 Tang CD3 Golden Cleaners / The Cleaners From Venus 3.リリースされたもののほとんどが70年代終わりから80年代前半〜半ばのネオ・モッドあるいはブリティッシュ・ポップですよね。こういうセレクションは誰の手によるものだったのですか? それは主にポールと僕によるものだった。僕らふたりとも80年代のモッドシーンには深く関わってた訳だからね。ポールは言うまでもなくジェットセット、そして僕はと言えば当時もっとも大きなファンジンのひとつであった"Shadows & Reflections"を運営していただけでなく、人気モッドバンドのひとつであるザ・モーメントのマネージャーだった。それにポール・ベヴォワーやポール・バルティテュード(アドバタイジング、後期シークレット・アフェアーの元ドラマーでのちジェットセットの作品のリリースでお馴染みのダンス・ネットワークを主宰)とはダンス・ネットワークの最初期から関わりがあった。1983年にジェットセットのクリスマス・フレキシディスクをリリースしたのはウチのファンジンなんだ、当時僕はまだカレッジにいたんだけどね。 その当時の他のバンドもみんな友達だった。だから僕らは一枚ずつCDを出そうとした。スクワイア、ダイレクトヒッツ、という具合に。言うまでもなくカタログのいくつかはポールか僕自身の管理下にあった、ジェッセット、ディー・ウォーカー、モーメントとね。しかし他の作品が連絡を取るのが大変でね、何年もかけて権利所有者にたどりつき許可をもらわなければならなかった。VIPsは集めるのがホント大変だったよ。 4.個人的に印象に残る(あるいはお気に入りの)リリース作品はありますか? もしあれば教えて下さい。 個人的に好きなアルバムといったら簡単だよ。リナルディー・シングスの"What's It All About?"だ。でも"The Best Of The Jetset"やダイレクト・ヒッツの"The Magic Attic"、ザ・モーメントの"Mod Gods"、VIPsの"Beat Crazy"も今だにとても好きだよ。実際のところ、リリースするまでそんなにすごいファンでもなかった唯一のものってのはクリーナーズ・フロム・ヴィーナスのCDだけだったんだ、けれどそれは彼等のことをきいたことがなかったからでね。彼等はポールの友人だった。 Tang CD4 Big Smashes / Squire 5.ポール・ベヴォワーはレーベルにスタッフとして参加していましたよね。日本ではタンジェリンを彼の個人レーベルとみている人達もいました(たとえばトット・テイラーのコンパクト・オーガニゼイションみたいな)。実際のところ、彼の役割はどういったものだったのでしょうか。 ポールはレーベルに深く関わりアルバムスリーブの殆どをデザインし、全てのアートワークにたずさわった。僕はスリーブノートを書き、宣伝やマーケティングを担当。そしてジョン・アシュワースがディストリビューションに関わり、メイル・オーダーでの販売や広告を切り盛りしていた。たった3人の友達が楽しみでレコードレーベルを運営していた訳だけど、不幸な事にそれがビジネスへと変わり始めて、楽しくなくなって行った。僕らは小さなレーベルで、1年に2,3枚のリリースしか余裕がなくてね。もっと大きなレーベルが僕らのマーケットに入って来ると競争できなくなった。 6,7年ぐらい前にポールが、もうこれ以上関わりたくないと決心してレーベルを辞めた。彼はニューアルバムを録音していて、それを別のレーベルで出すという考えを持ってた。ジェットセットの音源をタンジェリンでなくサンクチュアリーから再発するということを計画してたんだ。ジョンと僕はさらに数年レーベルを続けたよ、バックカタログを売り、新しいものは出さない、という方針でね。で、2003年に僕がタンジェリンレコードの名前を管理する権利を手に入れたんで、リナルディー・シングスのようなバンドによる新しい音源を出す場として再びレーベルを始めることにした訳。ジョンも今でも持ってる昔の音源を売り続けてはいるんだけど、現在タンジェリン・レコードというのは僕が運営しているんだ。 Tang CD5 The Best Of The Jetset Too / The Jetset Tang CD6 Jump Back! / Dee Walker -About the latest release "What's It All About?" by Rinaldi Sings 「最新作"What's It All About?"について」 6.このアルバムをあなた自身の言葉で紹介してもらえますか? ある日"Mr.Rainbow"を歌うスティーブ・フリン(実際は"マーク・ワーツが変名で歌っていて、Teenage Opera"-注・"Grocer Jack, Grocer Jack"と子どものコーラスが眩いサイケ期の名表題曲で知られる-に収録される予定だった)を聴きながら、スティーブ・リナルディーと僕は、何故いまや誰もこういう音楽を作りたくなくなったのかと思ったんだ、響き渡るバイオリンにキャッチーなフックのある、っていう音楽をね。で、ラブ・アフェアーやファウンデーションズ、キース、ジョン・フレッド・アンド・ヒズ・プレイボーイバンドのレコードをたくさん聴いて、スタジオに入り、1968年のカーナビー・ストリートの最新バージョンみたいに聴こえるレコードを作ろうぜ...となった訳だ。今年の3月についにアルバムはリリースされ、その後は非常に順調に進み、いくつかの素晴らしいレビューももらった。 Tang CD016 What's It All About? / Rinaldi Sings 7.あなたはこのアルバムに"Tuned Percussion"で録音に参加していますね。具体的には何をされたんですか?レコーディングで何か面白いエピソードはありましたか。また、たいていあなたは人の録音に加わったりするのですか? "Tune percussion"とは鉄琴や木琴のことだよ。それらが僕がプレイした楽器。"On A Magic Carpet Ride"で僕のプレイが聴けるんだ!それにアルバム中の"A Matter Of LIfe And Death"でも僕がその役割を果たしてるのが聴けるよ! 僕はいままで自分の好きなレコードの多くの録音に立ち会って来てて、時にはその録音に加われるという幸運にも恵まれて来た。ジェットセットのアルバムの殆ど全ての録音、ポール・ベヴォワーの最初のソロアルバム..."Do You Wanna Be In the Show"ではコーラスの群集の中て離れたところで声を出してるしね。ザ・モーメントのアルバムでも群集コーラスと一緒に加わってるし、最近レコーディングされたシークレット・アフェアーの"Time For Action"のニュー・ヴァージョンでも加わってる。 最近のMod Aid 20のシングル(注・リナルディーのインタビューも参照下さい。モッズ40周年を記念してスモール・フェイセズの"Whatcha Gonna Do About It"をカヴァーしたシングル。オリジナル・キーボードプレイヤーのジミー・ウィンストンが参加した他、B面ではスティーブ・マリオットの娘であるモリー・マリオットも加わった模様)でも録音に立ち会ってたけど、コーラスで一緒に歌うのは断ったんだよ。だってそうすれば、P・P・アーノルドとコントロールブースでふたりっきりになれるんだから。彼女は最も興味深く、美しい女性だったよ。 (part 2に続く)) Tang CD7 Get Ready To Go! / Squire Tang CD8 Dumb Angel / Paul Bevoir
by penelox
| 2005-08-17 23:59
| Tangerine Records
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