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My Reflection On XTC (11)

from album "Black Sea"

2/19
(mixi日記より)

この4枚目となる"Black Sea"が、XTCのアルバムの中でも初期の代表作に数えられる理由は、もちろん色々あるのだけれど、

キーワードとして挙げたいのが「成長」。
曲作り、ライブバンドとしての洗練度、アーティストとしての存在感...色んな意味での成長があるけれど、ここではそのものズバリ、人間としての成長。つまり、初期においてユーモアを隠れ蓑にしていたシリアスなメッセージが、成長にともなって正直に吐露され始めたと思うからだ。もちろん最初の3枚にもメッセージは込められているとは思うけれど、ヘヴィーであるなしに拘わらず。 ただ、それを真正面から出す事に照れを感じていた部分はあると思うのだ。

そのあたりが、どれぐらい考える時間があったのかはわからないけれど、沢山の聴き手を意識する段になって、改めてその姿勢を問い直された...そこから、シリアスさとウィットがうまい具合に醸造され、バランスの良いメッセージとして、「ライブ・バンド」のスタイルで弾き出せたのがこのアルバムだった...それが初期の最高傑作と見る向きが多い理由じゃないかと思う。音楽だけでなく、歌詞、もっというとその背後にある思考に関して一歩進めた、一歩深まった感じが明らかにあるからだ。

アルバムの中には、陽気なオプティミズムが弾ける曲と、真剣に、(陰鬱までは行かないまでも)重く響かせて行く曲とがあって、その重い部分を構成する一曲がこれ。軍艦"Black Sea"の、船底部のパーツを成す作品。

「我々の肺の中に言語は存在しない」。

当時のXTCには多くない、ゆったりとしたテンポで、人間のコミュニケーシヨンの不十分さへの苛立ちを、独特の視点で歌う。 しかしそれはかつてのような、ユーモアにくるんだものではない。真剣に、伝えようと、真直ぐこちらを見ている。 メインとなる部分は、これぞブリティッシュロックというべきギターサウンドを展開。前作ではつんのめるようなカッティング主体だったグレゴリーのギターも、なめらかで壮大なソロを聞かせる。

一番印象的なのはブリッジ・パート。ヨレヨレにふらつき、音程をくずしたキーボード音でさえ、これはユーモアではなくて、言葉の無能さ、コミュニケーションへの失望感を表現したものだというのが伝わって来る。
ここでパートリッジはこう歌う(私の意訳)。

世界そのものが自分の口の中にあると思った
言いたいことが言えると思った
一瞬で思考は手に持った剣に変わり
立ちはだかるどんな問題もやっつけられるはずだった
...(中略)
だが誰も本当に言おうとしている事は言えないのだ
その日 話す事の無効さがもたげて来て俺は打ちのめされたよ
この事をインストゥルメンタルで演奏できたら良かったのに
だが言葉が邪魔をして...


「コミュニケーション」の発見、世界を手中に収めたかのような優越感、そして、立ちはだかる壁を前にしての失望、無力感。言葉がオールマイティーでない事を一瞬で知る思春期の困惑。俺と同じ事を考えてる奴がいる...そう世界中の十代が思った
としても不思議ではない。

私もそうだった。
言葉に乗らない思考、たくさんの可能性を切り捨てて、それでも「無能な」言葉を使って話さなければならない。人間のコミュニケーションとは、愛情にも蛮行にもなり得る、それでも勇気を振り絞ってやらなければならない、実は常にもどかしい、困難を伴う作業なのだ...田舎の高校生が、地球の裏側のロックバンドと、それも皮肉にも「コミュニケーションの不全」の歌を通じてわかり合えたと感じた瞬間であった。

最後、人の話し声のSEの中に、ハイハットを刻みながら曲が儚く消えて行く。何とも映像的。 これも、ライブバージョンが秀逸。最後、アルバムとは違ってスネア一発で止めるところに何かを象徴している気もしてしまう。
コミュニケーションへの勇気を、奮い立たせるための一発、「目を覚ませ!」とでも言いたげで。

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甥っ子の幼稚園の発表会。
コミュニケーションの大切さ、不思議さ、そして難しさというのを、色んな意味で感じた日。

その後mixiに書いた日記は、図らずもコミュニケーションについての話になってしまった。
by penelox | 2006-02-19 23:59 | New Wave


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