プロローグ 2
で、良質ポップ、良心的ポップとは何ぞや、という話になる訳ですが。 私が思う良心的ポップミュージックの条件のひとつに、曲の構成、メロディー、リズム、歌詞...これら自体の、あるいはそれぞれの組み合わせに見られるある種のバランスの良さがあります。 たとえば、悲しい歌詞だとしても、音楽の方には希望が残されていて、全体として救いがあるというか。そして、その振幅が作るスケールこそが結局人間の生きざまの比喩になっていると言いますか...つまり完成された音楽が懐の深い、多面的な「人間らしさ」への信頼、人間の善性への期待(アート/芸術と言える表現の要諦とは煎じ詰めればこれではないかと思う)をべースとした「生きる」ことの暗喩になっていて、清濁合わせ飲んだ果ての、根源的に人間ぽい温もりが必ず感じられるということです。 具体例を挙げれば、スミス。彼等の音楽は、モリッシーの陰鬱とも取れる歌詞を快活な音楽で包んでいる事によるバランスが大きいですよね。 エルヴィス・コステロの鋭い社会/人間関係への観察眼と古き良き音楽への愛情のバランスも然り。 XTCの沸き出すようなアイデアは、伝統的なポップの構造/意匠の中でこそ輝きます。そしてそのバランス感覚は、「人間らしさ」、人間の善性への期待、を凝視したがゆえであるかのように思えてなりません。 自分の知る限り、そんな懐の深さを持つ良心的ポップとはたいてい、作り手個人の心の奥底に沈澱する澱を掬い上げ光をあてるプロセスを立脚点とはしていても、最終的には豊かで普遍的な娯楽になっていて-良い意味で人生を疑似体験させてくれるものではないでしょうか。あるいは、キャッチボールを例えに出すとわかりやすいかも知れません。相手を見ないで出鱈目に投げるのでも、相手を不特定多数の大衆ととらえてマーケティング、つまりまず商業的意図ありきで投げるのでもなく、それよりも、相手のグローブの位置をちゃんと見て、相手の善性や理解力、想像力に希望を託して誠実にボールを投げる事をまず最優先する。結果たくさんの人に聴かれるとしても、それがまず根底にある音楽。そんな気がするのです。 そうなるには、あるシンプルで伝統的な音楽的構成と、複雑さを複雑さと思わせない陽性の気質、そして個人的事情、内容を扱っていても普遍的な感情へと昇華された歌詞を持つ-つまり古くて新しい、時代を超えた誠実で滋味豊かなエンターテイメント性が大切なのではないか...今回はその事をとても意識したんですね。それが結局「良質」をある部分言い当てるんじゃないかと。The Penelopesを15年以上やって来て、ようやくそこにピントを合わせられたんじゃないかなと思うのです。 御存じの方ならわかると思いますが、私の場合その頂点を極める者として引き合いに出すのはいつもこのあたり-XTCであり、エルヴィス・コステロであり、スクイーズでありスミスであり、60年代ならビートルズ、キンクスをはじめとするあの時代に「人」をちゃんと描いた人達であり、70年代末から80年代にNew Waveと称された人達(=1968年の革命的精神を伝統的音楽の中に甦らせようとした人達、と言っても良いでしょう)の多く-ネオアコースティック、ネオサイケデリック、パワーポップ、ネオモッド、エレクトロポップと称された人達の多く、そしてそのNew Waveの栄養となった過去の多くの音楽たち-を指しているのです。
by penelox
| 2006-10-31 14:49
| The Penelopes関連
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