Melt The Snow

 今回の11曲では前回挙げたような良質なポップ、良心的ポップをとりわけ意識し、真似をする、というのではないのですが、そのエッセンスに出来るだけ迫ろうとしました。歌詞について言えば、前々作あたりから意識して取り組んでいた、短編小説的なスタイルーつまり歌詞を、私はこう思う、的な、意見発表の場にするのではなく、役割設定をして、それぞれのキャラクターに演じさせる演劇的な手法。所謂英国ロックの中に限定すれば、先鞭をつけたのはビートルズ、キンクスそしてフーで、スクイーズやコステロが引き継いだと思うのですが-をいくつかの曲ではさらに進めようとしたんですね。


 恋人としての、もしくは親密な関係が終わりかけている相手に宛てた手紙のスタイルのこの曲は、自分の足り無さを謙虚に認め、心のもがき苦しみを正直に吐露する一方で、人の心を、まるで永久凍土のように変わらないもの、学ばないものとみるかのような相手の見方への不満も匂わし、それでも最終的には「雪を溶かそうよ('Melt the Snow')」、と呼び掛ける。それは、結局'I Love You 'だから...基本線としてはこんな感じですが、後で考えるとそれだけではなかった気はします。たくさんの曲を作って来れば、自分の活動をそれなりに見て来ている人も少ないながらもいますから、そんな方達に無意識のうちに宛てていた、という側面は否定出来ないですね。


 アレンジに関しては、Squeezeに影響を受けたハーモニー(高音と低音のユニゾン)、モータウン的なダン、ダン、ダンというビート、The Box Tops(Alex Chiltonがいたバンド)やTommy James & The Shondellsなどの60年代のガレージポップやElvis Costello & The Attractionsに通じるオルガンと控えめなギターのアレンジ...それらの60年代から80年代の良質なR&B、もしくはR&B寄りのポップロック-それを伝統と呼ぶのにはためらいがありますが-を下敷きにしていて、そこにたとえばイントロでは昨今のエレクトロニカぽい要素や、エンディングでWingsの"Silly Love Songs"に象徴されるような70年代の陽だまり感を絡めて行った...こんなところでしょうか。

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"Greatest Hits" The Box Tops(1982)






"At the Speed Of Sound" Wings(1976)
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"East Side Story" Squeeze(1981)






"Going To A Go-Go" Smokey Robinson & The Miracles(1965)b0022069_1246693.gif








 でも、ここまで明かしておいて何ですが、聴いていただくきっかけとして以上には、そんなアレンジの断片のそれぞれを取り立てて着目して欲しい訳でもないのですよ。むしろ、あまり目立たないようにおさめようとした意図の方が大事で、それが隠れたメッセージと言えるでしょうか。無秩序に転がっているのではなく、ある意図をもって控えめに配置されているのは、要するにある特定の時代やジャンルにトリビュートしてるのではなくて、結局全ての時代の、全ての音楽がつながっている事をあくまで穏やかにアピールしたい...そんな感じです。
 
 つまり、私自身、80年代にひとかたならぬ特別な愛情はありますが、他の時代も好きですし、作り手として取り組む時、特定の時代、ジャンル、カテゴリーの中だけで機能する音楽には、小さく閉じた「コミュニティー」意識の濫立と、それゆえのお互いの敵愾心を煽るだけではないかという警戒心が消えないのです。もちろん、そうやってカテゴライズして作った方が速効性があるし、売りやすいのは、活動を10何年続け、レーベルをやって何度も痛い目にあっていると(苦笑)十分わかります。が、それでもなお作り手は、自分の胸に手を当てて、一番根源的なところに常に立ち返って考えるべきではないかという思いは捨てられないのですよ、それで果たして本当にクリエイティヴなものになるだろうか(それはもっと根源的に言えば、自分のいる社会「ソサイエティー」が良くなるだろうか)、と。もちろん、かと言って、八方美人的に色んな時代にトリビュートした音楽も価値があるとも思えません。無茶なミクスチャーに傾斜してその極端さ/接合面の不自然さを強調したがる音楽、流行り廃りにばかりかまけた音楽はなおさらです。また、そこには常にモラルなき商業主義、市場原理主義の侵食があって、ごまかされてしまうのです。その一点には絶えず目を凝らし、抵抗しないと。

 とまあ、何やら堂々巡りになりそうな問いですが、要するにその作品に根底に何があるか、一本筋の通った何があるか-私の場合、それは人間の善性への期待な訳ですが-それを作り手が一貫して意識して創作に取り組めば、必ずやある構成美、均整のとれた美しさを求める方向に作品が動き始めると思うのです。つまりそれが、バランスを形成するのではないでしょうか。作り手が一貫した意識をもとに常に広い視野を保てば(そのために、音楽の背後にあるもの、音楽と一見無関係なものでも、常に勉強すれば)、バランスをもった美しさが現れ、おのずと作品は大きなもの、普遍的なものになる。結局自分がモノ作りという容器に一番詰めて行きたいのは、ある意味コスモポリタン的な世界観を下敷きにして、人間を多面的に描くことでその善性を表出させる、という作業ですから、容器はバランスが取れていて、大きければ大きいほど良い気がするのです。コスモポリタン的な社会(ソサイエティー)を前提に表現を作れば、必ず小さな社会(コミュニティー)にも届く...そんな気がするのです。ですから、自分にとってThe Penelopesの曲とは、そんな大きな世界観を持った表現を作ろうとする壮大な夢の1ピースなのかも知れませんね。


 えらく大きく出てしまいましたが、丁寧に語ろうとすると、どうしても字数を喰ってしまいますね...次からはもう少しまとまり良く書こうと思います。


 最後にひとつ。実を言えば録音中は、もっとシンセ中心のある種エレポップ的なアレンジだったのです。が、色々悩んだ挙げ句、ミックスの段階で大幅に削り、完成した曲の表情はガラッと変わりました。まず出来るだけ色を塗って、後から全体を見渡して要らない色を削って行く...そういう(自己批評性と多少勇気の要る)やり方を徹底出来たのも、この曲での進歩かと思います。
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by penelox | 2006-11-05 11:27 | The Penelopes関連


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