(1966年10月16日放映) 人間のエゴイズムを皮肉たっぷりに描くという意味で、佐々木守-実相寺昭雄コンビの作品群は「ウルトラマン」のエピソードの中で独特の光彩を放っている訳ですが、この作品では女性の美への執念、というテーマをユーモラスに描いていて、嫌味な感じにはなっていない...そんな感じでしょうか。 もっとも、ユーモアが過ぎて、桜井浩子氏への魚眼レンズによるアップ撮影には、さすがに本人からのクレームが出たようで。 ...ふざけるなといえば、フジアキコ(桜井氏の演じた隊員)を魚眼レンズで撮ったのも、実相寺であった。 だが、脚本の佐々木(守)は、フジ隊員をきれいに撮れと、実相寺に指示していたのだった。 「うん、いいよ」 二つ返事で引き受けた実相寺は、魚眼レンズを使った。 その結果、鼻の穴が広がり、目がタレている、とんでもないアップのシーンとなってしまった。 (「ウルトラマン創世記」桜井浩子著より) 確かにこのシーンは印象的で、子供心にも忘れられないものでした。この話での桜井さんはショーウィンドウに鼻をくっつけてブタみたくなるシーンもあったと思う。それすらも、別におかしいと思ったりは全くなく、こういうものだと思ってみていた幼少期...いやはや。 いまでも、一般的に受け止められている美意識とは反対方向に持って行くことで、却ってその魅力を際立たせる、という、このヒネクレた(? いや、ギャップを大事にする)方法論は、無意識のうちに血肉化して自分のなかにある。逆光の中でこそ、物事の核心が浮かび上がる...とでも言いましょうか。このヒネクレ感は、のちに発見するコステロやXTCの音楽の中にも確かにあった感覚でした。 ですから今改めてみても、これがあるからこそ、最後に真珠を身に付ける美しいシーンや、銀座でのイデ隊員とのデートシーンの淡い雰囲気がかえって印象的で、むしろ桜井浩子の魅力の詰まった主演作として、楽しい作品になっていると思うのですが。 それはさておき... 悪いのは人間であって怪獣のほうではない...これをはっきり打ち出すのが、佐々木-実相寺コンビによる作品の際立った特徴で、これゆえに「ウルトラマン」全般までそう取られることさえあるのですが、人間の考える正義というものへの懐疑が、この全39話のドラマの全体に常に強く貫かれているのかというと、実際はそうでもないように思います。 そもそも「ウルトラマン」においては、脚本、監督をローテーションで回したぶん、その個性によって描かれる正義への温度差は話ごとに違うんですよね。結果的にはその温度差、懐の大きさがバラエティーとしてバランスよく収まった訳ですが、これはそう意図された、というよりも、最初はわかりやすい勧善懲悪ものとして始まったものの、作っているうちに、作り手達が考えさせられ、より深いものへと変わって行ったケース、それにこのコンビの作風に他の作り手も影響されたケース...様々な場合があったんじゃないでしょうかね。 ちなみに初代ウルトラマンの怪獣のデザインは非常に秀逸で、たとえばエイリアンに代表されるようなアメリカ風の怪物とくらべると、悪の権化のようなものは殆どいないのがまた、個人的に好きなところなのですが、ここで登場するガマクジラも、ちっとも憎らしくないんですよね。醜い化け物といえばそうなんですが、むしろかわいらしいぐらいで。 ですから、当時子供がむしろ怪獣の方を応援したり、そもそも人気怪獣、というものがあったこと自体、そのデザインの素晴らしさを証明するもので、これも結果的に、ドラマの苦味を際立たせて行ったと思いますね。まぁこれは、わざわざ私が言わなくても、既に常識となっていますけれど。
by penelox
| 2007-03-09 15:39
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