ライブと新録をカップリングした87年の"React"も含めると、通算7枚目となるアルバム。88年の前作"Calm Animals"はかなり驚きだった。あのトレードマークと言うべきファンキーなリズム、空間を活かした独特のカッティング、近未来風シンセといったフィクスをフィクスたらしめていた要素を後退させて、バリエーションを広げた- どう広げたかと言えば、それは普通のバンドとしては一聴するとごく標準的なギターサウンド、フォークロック風/アメリカンロック風のバンドサウンドであり、正直はじめて聴いた時は何でいまさらフィクスがこれなんやと、かなり戸惑った覚えがある(エイジア風のフロントカヴァーにも少なからずショックを受けたというのも事実)。そして、しばらく聴いてのちその良さ、彼等なりの解釈の鋭さを素直に認められるようになった頃、改めて聴き手というのがいかに前と似たものを求めてしまうものなのかと我ながら感じ入ったものだった。だから結論を急がないよう自戒を込めて聴いてみる。基本的にこの作品、そんな前作を基本的に踏襲しつつ、行き過ぎないよう注意している気がする。前作の転換を活かしつつも、それまでの彼等らしさも大事にした、そんな慎重な配慮(決して聴き手におもねっているというのではなく)が感じられる。たとえば01 "All Is Fair"は前作"Calm Animals"からの路線を引き継いだ、80年代半ばまでとは違う新しい彼等、ギターバンド然とした彼等。フィクスの音楽でハーモニカが出て来るなんて誰が想像しただろうか。とは言え、これは初期を知っている向きの見方であって、はじめてこのアルバムから入った方なら、きっと違うだろう。どう聞こえるのだろう。このあたりは想像すると面白い。若い世代、New Wave全盛時の彼等を知らない世代の意見を知りたいものだ。02 "How Much Is Enough"で昔のフィクスの面影が戻って来るけれど、90年代初めのサウンドプロダクションのせいもあって妙にメカニカルで重苦しい印象もある。しかし当時の風潮を考えれば、歌詞の重さ-NY株式市場、ヤッピー・・・アメリカ的市場原理主義が本格化し始める90年代初頭における警告-にはピッタリ合っている気もして来た。そして味わい深い、3rd "Phantoms"あたりから出て来る希望と4th "Walkabout"から出て来る包容力がうまくブレンドされた03 "No One Has To Cry"まで来ると、心のなかで何かが融けて行くのがわかる。その説得力に、過去にこだわっている自分が馬鹿みたいに思えて来たのだ。誠実なバンドとしては当たり前のこと-年齢を重ね、音を広げ、円熟味を増し、自分達の音楽の説得力を増して行っている-をやっているだけなのである。誰に時間と歩みを止めることなど出来ようか。しっかりと成長を音楽に刻んでいることは素晴らしい、素直にそう思うと、彼等の音楽に入って行けた。確かに、彼等のいつもの欠点でもある、アルバムの構成がもうひとつである点、それに、ソングライターがいないバンドによくある(バンドの民主性に偏るあまり、アンサンブル主体になりがち)メロディーの地味さへの物足りなさというのは個人的にどうしても残る。しかしそれを補って余りある音楽の成長-さらに開かれ、力強くなっている-は間違い無い。新しい試みが全て成功しているかというと言えばそうとばかりは言い切れないが、挑戦を買おうと思わせてくれる。それに、社会との繋がりを決して失わない彼等らしい姿勢というものもやはりなかなかないもので、これが相変わらずキープされている点、これも評価したい。このあとバンドは長く沈黙してしまうのだけれど、成長を刻んだことは間違い無い好盤。
by penelox
| 2008-03-12 07:54
| CD備忘録
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