人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Throw the Warped Wheel Out - Fiction Factory (1984)

 80'sスコットランド発、ロキシー・ミュージックの子供達がここにも・・・80年代に2枚のアルバムを残しているフィクション・ファクトリーの1stを聴いてまず思ったのはこの事。一世一代の大ヒット曲となった01 "Feels Like Heaven"に象徴的な、淡いシンセ、ファンキーなベース、軽やかで緩やかなメロディーを朗々と歌い上げるボーカルが織り成す80年代前半から半ばの英国のひとつ潮流、ニューロマンティックともエレポップとも称されるその音楽群の特徴は、おそらくジョン・フォックスやゲイリー・ニューマン、ビル・ネルソンらが70年代末に切り開いた地平に芽吹き、同時代に活動を再開した新生ロキシーミュージックのスケールの大きな美意識にインスパイアされ、コンテンポラリーなブラックミュージックの刺激を受けつつ世界へと広がり開花して行ったものだと思う。耽美的だが決して窓や扉を閉ざすことはしない、明るい陽射しと爽やかな風が入って来るようなこの音世界は、この時期の英国のエレクトロポップ特有のえも言われぬバランスに繋がっている。それは、コミュニケーションツールとしての音楽を考える時、何かと過剰になりがちな昨今の音楽の抱える問題点- 内向性と外向性のバランスの悪さ、誠実さへの意識の薄さ -を、結果的とは言え教えてくれる。

 代表曲として長く記憶されるであろう01と似た楽曲がない分損したとも言える作品だが、シングルになった07 "Ghost Of Love"や、02 "Heart & Mind"、攻撃的なファンクチューンの06 "Hit the Mark"など、当時のブラックミュージックからのインプットであろうと思われるファンキーな曲が意外に多く、また出来が良い。これは当時のデュラン・デュランやスパンダー・バレエからABC、ヘヴン17に至るまでそうだったけれど、当時の英国の同系統のバンドはどれも、最先端と目されていたダンスミュージックへの目配りがかなりあった。ニューロマ/エレポップを語る際に当時のアメリカのブラックミュージックの存在は抜きにして語れないという印象を改めて強くする。その一方で03 "Panic"や04 "The Hanging Gardens"、08 "Tales Of Tears"、09 "The First Step"、10"The Warped Wheel"のように、ジョン・フォックスやビル・ネルソン、後期ウルトラヴォックスに通ずる無垢なユーロピアン・ロマンティシズムを強く感じさせる美しい作品もある。彼等の音楽はいわばその2枚看板で展開されており、全体としてそこにスコットランド出身らしい素朴さ、エモーショナルな表現が時折見出せるのが彼等らしさと言えるだろう。特に05 "All Or Nothing"にはシンプルマインズやアソシエイツといったかの地の人達のエモーショナルさに通ずるものがうかがえる・・・と思ったらこの曲は当時アソシエイツを辞めたばかりのアラン・ランキンのプロデュースだった。ちなみにバンドのドラマーは元シンプルマインズのマイク・オグルトゥリー。その辺りの人脈、人選も興味深い。エレポップ全般への批判として、キーボードのアレンジがこの時代のテクノロジーゆえ、時間の経過に耐え切れていないというのがある。確かにいま、こういうシンセの音が現代の若い世代にまでアピールするかどうかはわからない。が、これも流行のサイクル次第であり、またその時代のことをより深く知れば知る程抵抗は薄れて行くのではないだろうか。自分たちの音楽を磨き上げようとしている生真面目さが今となっては商売気のない地味さに映り、過激に行き過ぎないマイルドな音像ゆえに"One Hit Wonder"(一発屋)というレッテルの上書きがさらに強調されてしまいそうだが、何よりも音楽そのものの質を信じている彼等の誠実な姿勢ゆえであると思う。当時の良心的ポップアルバムの一枚。

Feels Like Heaven
by penelox | 2008-03-19 12:46 | CD備忘録


<< カルト資本主義 (斎藤貴男・著... Bewilderbeest -... >>