カテゴリ:Pop Picks( 185 )

Watanabe's Pop Picks 272: Martin Newell "Radio Autumn Attic"

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 久々に買ったCD、マーティン・ニューウェルの2002年のアルバム"Radio Autumn Attic"を聴いています。

 架空のラジオ局"Radio Autumn Attic"(秋の屋根裏部屋)から流される架空の番組・・・という、コンセプチュアルな作品。となると、どうしたって60年代のThe Who "The Who Sell Out"やSmall Facesの"Ogden's Nut Gone Flake"を連想するのですが、実際、曲間にCM風のジングルが入ったりする作りは前者に近い印象で、楽曲からは後者の英国的な濃厚な匂いが漂って来ます。あとはもちろん牧歌的なときのXTC、60年代後半のThe Kinks。60年代に恋焦がれた人が今やるのなら・・・という意味でのアレンジや全体の佇まいとしては、彼のやっていたCleaners From Venusのベスト盤をTangerineで編集しリリースするなど尽力したポール・ベヴォワー・・・やっぱりこのあたりの人々には個人的に思い入れもあるのですが、私がいつもインスパイアされ続ける人達と通ずる要素が多々あります。

 アンディー・パートリッジと同じ1953年生まれの彼自身は、元々は70年代前半にグラムロックバンド、Plodでデビューし(当時について語った"The Little Ziggy"という本を出版したようです。タイトルや、彼のユニット名からもボウイの影響を避けて通る事は出来ないんでしょうね)、いくつかのバンドを転々としたのち80年代初めに自身を中心としたユニットであるCleaners From Venusへとたどり着く訳ですが、そういった経緯も含めて、英国ロックの歴史の貴重な生き証人とも言えるのでしょうね。少なくともそのことが彼の音楽に刻み込まれてるのは間違いないでしょう。


 個人的に秋をテーマにしたアルバムにずっと取り組み続けているので、このタイトルも実に実に刺激を受けます。


■"The Wicked Witch"
 アルバムからの一曲。タイトルの「南から来た悪い魔女」とはマーガレット・サッチャーのことだそうで。いまだにLittle Fountain in the Bamboos (竹の中の小さな泉・・・/笑)の行状が殆どきちんと検証されないような国に住んでいると、こういう、ちゃんとわかっているアーティストが地道に活動して行ける国の文化の厚みというのを感じずにはいられません。


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by penelox | 2010-10-18 12:05 | Pop Picks

苦渋の憂いを含んだパワーポップのそよ風は第二章の趣

Watanabe's Pop Picks 271
"Hearts Will Be Broken" - The Records


 このレコーズは70年代に英国で活躍したバンドThe Kursaal Flyers(カーサル・フライヤーズ)のメンバー、ジョン・ウィックス(Vo/G)とウィル・バーチ(Dr)が中心となってPunk /New Wave旋風吹き荒れる70年代後半のロンドンで結成したバンド。ブリティッシュでありながら、どちらかというとその数年前まで活躍していたラズベリーズ、それに同時代のナック、チープ・トリック、シューズといったアメリカン・パワーポップと同じルーツを共有している感覚が強いのが独特の人達でした。甘酸っぱいメロディーと爽やかなハーモニーをリッケンバッカーのギターサウンドで包み込む・・・そのおおもとはビートルズであり、今となっては大変にオーソドックスな音かも知れません。

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 ビートルズ、キンクス、フー、バーズ・・・60年代に範を求めた大変クラシカルなオールドスクール・パワーポップ、そんな定義にピッタリ入る音楽ゆえ、パワーポップという枠組みを外して聴いてもらうというのが、また難しいのではありますが、私なりの聴き所としては、どこまで明快なパワーポップスタイルであっても、やっぱり英国勢らしさが良いな、というのがあります。つまり、明るさや爽やかさ、切なさだけに終始しないある種の抑制美が際立つところでしょうか。感情や勢いに一方的に流れてしまう前にどこかで止めが入る、それは英国的というだけでなく、どこか大人の批評眼が感じられるとも言えます。それゆえ熱さや汗臭さは薄く、若い情熱で突っ走らないベテランのクレバーさは、下手すればその音楽を小粒に聴かせてしまうということでもあるのですが、彼らの長いキャリアを元に音の隅々を味わってみれば、音楽業界の浮き沈みの苦渋を味わった後、音楽との関わり方にそれなりに折り合いをつけ、彼らなりの良質のポップロックにこだわろうとした結果であることがわかり、何とも憎めない訳です。

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 リッケンバッカーのフォークロックサウンドに乗って、"Words will be spoken and hearts will be broken tonight..."(「今夜言葉が紡がれ、恋が破れ去る」と訳してみましたが)なんて苦いサビを爽やかに歌い上げる、夢破れたものの第二章的趣が漂う大人のポップロックは、何とも染みます。




こちらもこのアルバムの名曲のひとつ。2ndアルバムはなかなか粒ぞろいの作品なのです。

"Girl In A Golden Disc"




 彼らと言えば1stにも収録の代表曲であるこの曲。しかしそれが、よりによって、フランスで失踪した元マネージャーへ宛てた内容の歌詞を持つというのも、いかにも英国的というべきか(笑)。

"Starry Eyes"



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by penelox | 2010-07-21 22:33 | Pop Picks

夢見るメロディーは永遠の心の栄養

Watanabe's Pop Picks 270
"All the Daughters of Her Father's House" - The Icicle Works


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 実に久々のPop Picksの更新ですが、お許し下さい!
 アイシクル・ワークスについては、mixiの2009年3月の日記で"Birds Fly(Whisper To A Scream)"を挙げたことがあるのですが、実はこの1stアルバムに負けないくらい、85年の2ndアルバムも好きなんですよね。




 「ネオサイケの名盤」として評価が定まっている1stと比べて、アメリカンロックに接近した・・・2ndアルバム"The Small Price Of A Bicycle"はそういう評価が一般的になってしまって現在に至る、そんな感じですが、アメリカンロックへの新鮮なアクセスと、その意味するもの - 全ては何より夢見ることの比喩だと言う事 - をハタチ当時この作品で教えてもらった身としては、その評価は半分首肯しつつも、もう半分は抵抗を込めて軽く苦笑する、といったところです。

 この夢見るようなメロディーの前にしたら、ジャンルやカテゴリーなどどうでもよくなって来るリスナーもきっといると思うんですよね。今の私としては、そっちに賭けたい気分なんです。



 一方アルバム未収録でしたが、こちらの曲も、その夢見るようなメロディーに、何年も夢中になったものでした。
 初めて聴いてから25年も経ってますが、いまだに心の栄養。

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"When It All Comes Down"



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by penelox | 2010-07-20 23:13 | Pop Picks

Watanabe's Pop Picks 269

"I Bought Myself A Liarbird" - XTC
from the album "The Big Express" (1984)

 このPop Picksというシリーズでも、なのかも知れませんが(苦笑)、XTCの作品を取り上げることが一番多かったと思います。しかし、そのなかでもまだあまり取り上げてない時代もありまして。それがこの、1984年の"The Big Express"の頃。

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 実はこの作品は、最初出会った10代終わりはこの円形ジャケットともども大好きで、とは言え歌詞で描かれた世界や心情はまだまだ未熟でよくわからないところもあり、他の作品にその後耽溺するようになってから少し遠くなった。それが、近年またその内容が何となくわかるようになり、良さを見直すようになった・・・そういう、時間の経過のなかで自分のなかでの位置づけが色々と変化して来た作品なのです。

 彼らの作品全体のなかでの位置づけを考えてみれば、ライブはもう二度としないという宣言を出してから最初のアルバムだったと記憶していて、その決意が音の濃密さに現れているように思えてなりません。要するに、スタジオ録音プロジェクトとしてXTCを定義づけた、そういう世間一般に流布されるような所謂ロックバンドの行動指針とは反対方向への決然さ(笑)が、キンクスにも通ずる英国的なヒネクレと市井の物語中心への作風転換の最初の明確なサインとして嬉しい作品で、そのことが音と一体になっているせいで評価もまた時代によって左右されやすかった作品ではなかったでしょうか。

 私自身は今聴くと、小さな街スウィンドンで、日常の普遍的なことを歌っていこうという意識的なものが凄くうかがえて、作る側として参考になるのみならず、当時の自分自身の心も映し出される分、とっても懐かしくもあり、鮮やかな印象があります。一番好きな"(Everyday Story 0f )Smalltown"がYouTubeでは見つかりませんが、このあたりは今の方がよく聴きます。

 まずこの日記のタイトルになっているこの曲は、マネージャーに宛てた内容が大変物議を醸したのか醸さなかったのか・・・(笑)、ともかく彼らの解説本には必ず紹介されない(笑)、だけど間違いなくアルバムのカラーを代表する名曲。



"You're The Wish You Are I Had"

■"All You Pretty Girls"
シングルの邦題は「僕のプリティ・ガール」でしたね。




 このふたつはコリンの曲。彼の牧歌性は前作"Mummer"で大いに開花したと思いますが、このアルバムではアンディーに付き合って、元気な曲もいくつかあります。しかし"Black Sea"の頃よりも明らかに濃密になって来ているのがわかりますね。

"Wake Up"

"I Remember the Sun"


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by penelox | 2010-05-17 00:11 | Pop Picks

Watanabe's Pop Picks 268

"This Is Zero" - TV21 (1981)
from the compilation "Snakes And Ladders - Almost Complete: 1980-82" (2010)

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 実はこのTV21については、mixiで以前取り上げていました。その際にはこの曲を演奏した当時の音楽番組"Old Grey Whistle Test"での映像を紹介したのですが、その後どなたかが正式音源のオーディオファイルをYouTubeに挙げてらしたり、かつ待望のベスト盤"Snakes And Ladders"が遂にリリースされたということもありましたので、それを元にまた書いてみます。
 まずはその前回も紹介しました"This Is Zero"のスタジオバージョンから。




 ベスト盤にある細かい記述を元に彼らの事を書いておきますと、1979年にスコットランドのプレストウィックの学校で友人であったノーマン・ロジャー(Vo/G)とアリー・パーマー(G)を中心に、いくつかのバンド活動を経てエジンバラで結成。自ら立ち上げたPowbeatからトロイ・テイト(レジロス、当時はシェイクのメンバーで、のちティアドロップ・エクスプローズにも在籍)制作によるシングル"Playing With Fire"を80年にリリース。その後Demonからシングル、そしてDeramと契約し1stアルバム"A Thin Red Line"をイアン・ブロウディーの制作により81年にリリース。残念ながらこのアルバム一枚と数枚のシングルを残して82年には方向性の違いにより解散しています。このコンピレーションはアルバムまるまる一枚と、そのシングルからの楽曲のいくつかを収録。


■"Ideal Way Of Life"




 このコンピを聴いて全体的な音楽性を捉えてみれば、やはりパワーポップ、ネオサイケデリックと称されるようなジャンルの両方にまたがる要素を有しているということが浮かび上がって来ます。バンド名から窺える60年代英国文化への愛情、社会にコミットした歌詞を親しみやすいメロディーに乗せて歌う部分はある意味当時のパワーポップ的(コステロ、スクイーズ、ジャム、XTC、ブームタウンラッツ、アンダートーンズといった人達。当時ジャムのポール・ウェラーが高く評価していたというのも頷ける話)で、管楽器や鋭角的なギターサウンドで緊張感ある音像を作り上げる部分はティアドロップ・エクスプローズのようなリヴァプール・ネオサイケを連想させる・・・という訳です。もちろん情熱的なボーカル、楽曲の歌心はスコティッシュならではという印象。細かく見れば、初期のシングルではギターサウンドやダブ的な処理にXTCにも通ずるポストパンク・ギターバンド的ニュアンスが感じられる(アルバム収録バージョンと相当違う"Ticking Away"や"This Is Zero")のが、次第にパーカッションが複雑に変化(ファンカラティーナの時代の空気もあるでしょう)し、ラストシングル"All Join Hands"ではエレクトロ/アンビエントに到達。当時としては決して不自然な変化ではないのですが、今となっては実に挑戦的に思えます。

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■"Ticking Away"




 要はこのベスト盤、たった2,3年というわずかな期間での彼らの急速な変化/進化を一枚で見せてくれる、とても興味深い作品になっているのです。また、ブックレットも読めば、意外な繋がり(実は意外ではないのですが、日本にいるとこういう情報は殆ど入って来ませんでしたから)、たとえばアンダートーンズからの影響、アナザー・プリティー・フェイス(ウォーターボーイズのマイク・スコットがスコットランドにいた頃やっていたバンド)やスキッズとの交流が見えて来て、ポスト・パンク期におけるスコットランド音楽シーンの豊かさの一端を垣間みることが出来ます。


 ひとつだけ残念なのは、 プラケース並びにデータべースでの曲表記の順番が間違っていること(ですからiTunesでも間違った曲順が出ます。amazonでも間違えたまま試聴されています。下手したらダウンロード販売も間違えたままかも知れません)。実はブックレットの裏表紙は正しいので、ここにも書いておきますと、8曲目に"Snakes And Ladders"とありますが、これは実は13曲目。9-13曲目までが実は8-12と前にずれこみます。また、14曲目の"What's Going On?と15曲目の"Something's Wrong"が逆になっています。こうなった理由を考えてみますと、そもそもは1-7曲目にレアなシングルが並び、8から18がアルバム全曲をLP時代同様に入れて19でラストシングルと、そういう時代順の構成なのですが、13がシングルにもなったので、もしかしたら当初はシングルを並べるつもりで13や19も前に置こうという計画があったんじゃないでしょうか。しかしながら、実は13はアルバムバージョンと変わりないので、それならばアルバムの構成は崩さない方がいいという結論になって元の13曲目に位置に戻したのだが、プラケースのデザインの段階で上手く伝わらずミスをしたのではないかと。14と15があべこべになっているのは単なる校正ミスかなと(苦笑)。まぁ、これらはすべて私の憶測ですが、そう思えるのです。自分でもCDを作って来ましたから、デザイン制作時のあれこれから想像出来るとは言え、こういうのは聴き手にとっても、アーティストにとっても残念なことです。アーティストがきっちり関わってたのかどうかわからないので何とも言えませんが、これだけがマイナス点。しかし総合的には、大変喜ばしい初CD化であるのは間違いない作品。

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by penelox | 2010-05-10 22:39 | Pop Picks

"Nonna In the Garden" - Yani Martinelli (2010)

Watanabe's Pop Picks 267
"Nonna In the Garden" - Yani Martinelli (2010)

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 今年に入って3月末まで、ひたすらR&B/ソウル黄金時代の音楽に焦点をあててこのPop Picksを展開させて来ましたが、春の到来とともに、またいつものポップフィールド寄りに少し戻したいと思います。

 去年の秋頃を中心にMySpaceで出会ったアーティストを結構紹介したのですが、9/28のPop Picks 171で書いたスペインはマドリードのNavy Blue、この趣味の良いポップバンドについてご記憶の方もおられると思います。後で知ったのですが実は彼ら、去年の秋に残念ながら解散していまして。で、このバンドのソングライターでありリードシンガーであったYani Martinelli嬢が、今年に入ってリリースした7曲入りミニアルバム"Nonna In the Garden"。今日はこちらをご紹介させてください。

 Navy Blueのダイナミックなピアノポップ(スーパートランプが好きというのも、何だか嬉しくなったものでした)から一転して、ここで聴けるのはセンスの良い、アコースティックな小品集。全曲聴いて連想させるアーティストを挙げれば、ハイ・ラマズ、(60年代後期の)ビーチボーイズ、70年代初期のポール・マッカートニー、("Vaudeville Park"期のジェットセットの世界とそれを継承した)ポール・ベヴォワー、近年のXTC・・・それに実際作品に参加しているスコット・ブルックマン、といったところでしょうか。アコースティック・ギターをメイン楽器に、ピアノやバンジョーで味付けした素朴な演奏、歌なのですが、上記のアーティストを思わせる時にニヤッとさせる捻ったコード進行、ドリーミーな展開/アレンジを、これ見よがしではなく、さりげなく見せます。決して存在感溢れる訳ではない声で、あまり上手でない英語で歌うのがまた却って良い雰囲気を出していて、愛猫について歌う03 "Katmandu"や、昼下がりのラジオで聴きたくなるような04"In the Scheme Of Things"(ブルックマン氏のカヴァー)、デニス・ウィルソンのカヴァーである05 "Little Bird"はその良い見本かと。手作り感覚溢れるインディー・ポップ、なんて言葉は今では使い古されていますが、彼女の場合はポップがかなり太字、という感じでしょうか。女性シンガーソングライターで、初めから終わりまで、こういうちょいとマニアックなポップ路線を軽やかに進めて行くというのはなかなかないんですよね。そこがまた嬉しいところですし今後も期待してしまうところです。ラスト07 "Thank You For the Show" のボードヴィルっぽい展開には、ビートルズからの伝統や、スペシャル・サンクスにクレジットされているポール・ベヴォワーに通ずるものもあり、おそらく彼女のキャラクターから来るのであろう暖かい余韻で締めくくります。

 ご本人からいただいたのはCD-Rで、レーベル名もありませんから、この段階ではおそらく完全な自主制作だと思いますが、MySpaceでも聴けますのでぜひチェックしていただきたいですね。

Yani Martinelli MySpace page

"Bach Ze" - Yani Martinelli (The High Llamasのカヴァー)



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by penelox | 2010-04-09 15:17 | Pop Picks

天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (5)

Watanabe's Pop Picks 266
"Village Ghetto Land" - Stevie Wonder
from the album "Songs In the Key Of Life" (1976)

 ワンダー氏の5部作と呼ばれる72年からの作品群ですが、この76年の所謂「キー・オブ・ライフ」が過去4作の総決算として考えるとまさにその通りだなと思いますね。ここまでひたすら私的な「自然とにじみ出る摩訶不思議感」というキーワードで彼の70年代の諸作を追って来た訳ですが、この5枚というのは、そのキーワードで括れる要素がどんどん整理され、ポピュラーミュージックとして洗練されて行ったプロセスに思えます。アメリカの、特にブラックミュージックに必ずついて回る、アート性よりもポピュラリティー、そして人種を超えてアピールする音楽によるポピュラリティーを、黒人コミュニティーとの繋がりを失わずにどうやって獲得して行ったか・・・この天才であり努力家である大変な音楽家の絶頂期の作品群を聴いてみて、色々と勉強になりインスパイアされつつ、複雑な心境にもなりつつ・・・そんな感じでした。

 1976年というと、アメリカ建国200年。当時の盛り上がりは子供心にも覚えているだけに、この作品の神懸かり的完成度はあの年の祝福の風にも乗っているのではないかと、そんな印象さえあるアルバム。しかしこのなかでは、また私らしく(?)、あまり光の当たらない、だが、きっと彼が入れたかったであろうこの曲を。自分の足下をしっかり見つめなければここまで質の高い音楽は作れない、そのことを肝に銘じるつもりで。



アルバムで気に入っている曲をいくつか。

■"Knocks Me Off My Feet"



■"Summer Soft"
不思議なコード展開は相変わらず。




■"Isn't She Lovely?"
 "Sir Duke"とともに、アルバム中最も有名な曲のひとつでしょう。かなり素直な展開で、みんなで歌えるタイプですが、愛娘を前にした祝福感、幸福感がこぼれてますね。



■"Joy Inside My Tears"
 これも心地良いですがよくよく聴くと奇妙な展開・・・ただ、それがスティーヴィーだ! というぐらいもう当たり前になっているので、誰も気づかない、そんな感じでしょうか。



■"As"



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by penelox | 2010-03-22 23:56 | Pop Picks

天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (4)

Watanabe's Pop Picks 265
"They Won't Go When I Go" - Stevie Wonder
from the album "Fullfillingness' First Finale" (1974)

 私はソウル/R&Bとか、ロックとかの区別とは別に、基本的にシンガーソングライター指向(シンガーソングライターがいるバンドが理想。なので、ビートルズとかコステロ、XTC、スクイーズ・・・や、ネオアコースティックと呼ばれる人達の流れが好きだったんだと思います)なので、そういう方の音楽に関してはついつい分析的になってしまいますが、もう少しおつきあいください。

 "Music Of My Mind"から"Songs In the Key Of Life"までの5枚を5部作とか"Classic Period"と呼ぶらしく・・・ということを書きましたが、本人がそう言ってるにせよ、音楽評論の世界でそう結論づけられてるにせよ、聴いて行きますと最初の3枚と、この4枚目となる所謂「ファースト・フィナーレ」では、実際のところずいぶん音の感じが違う印象があります。ぶっ飛んでないというか、カチッと常識の範囲内に収まっているというか、ともかく天才ゆえの常人離れした感覚がこの作品では少し薄れた感じがするんですね。。完成度の高い、良いアルバムだとは思うんですが、シングル曲の"You Haven't Done Nothin'"(邦題「悪夢」)や"Boogie On Raggae Woman"(邦題「レゲ・ウーマン」)の賑やかさキャッチーさで気付きにくいけれど、他の楽曲は前3作と比べると実はずいぶん落ち着いていて、重厚なんですよね。その結果、全体としてはシングルとアルバムをきっちり分けて役割分担してるという計算性というか、隙のない、手堅い優等生と向き合ってるような感じがどうもつきまとうんです。きっと手作り風ポップ好みの私としては、人間的なゆらぎというか、訳のわからなさが少々恋しいんだと思います、前はもっとへんてこりんでしたやん、みたいな(笑)。まぁ、まだ聴き込みが足りないだけなのかも知れませんのであくまで今の印象に過ぎませんけどね。

 この頃のスティーヴィー・ワンダーに関してよく知られるエピソードなどを元に、そう感じる理由を色々分析してみますと、まず何より前の2枚"Talking Book"、"Innervisions"で大変なポピュラリティーを獲得したことが大きいのかなと。それによって、守りに入ったとは思わないけれど、どうやったら大衆に受けるか、本人か、周りのスタッフかはわかりませんが、それが意識的か無意識的かは別としてかなり身に付いて来たんじゃないかということ。それと彼の音楽家としての人生の大きな転機として挙げられる、73年夏の交通事故。もしかしてこの作品の録音はそれ以前だったのかも知れないので断定は出来ませんけれど、生死の境を彷徨い、一時は味覚まで失ったことから、そのリハビリのなかで慈善事業や平和活動などの社会貢献に目覚めたという事がよく記述されています。そうだとすると、この大変な試練のなかで、誰に向けて何を歌うか、どう歌うか、それらが彼自身の心の中ではっきりと整理されて行ったのではないかなと。もちろんそれは素晴らしいことですし、以後もワンダー氏は創造性溢れる音楽家であり続けたとは思いますが、おそらくシンセサイザーと気侭に戯れることで結実したのであろう彼独特の音楽 - 心の流れのままを描く、という行為ゆえに時に官能的でもあった - にあった未整理ゆえの自然な摩訶不思議感は、沢山の人に伝え続けるという目的のもとに、ここで大きな転換期を迎えたのは事実ではないでしょうか。

 ともあれ、ストレンジ・ポップな部分はずいぶん減退したと思うのですが、ポピュラーミュージックとしてはよりわかりやすくなったと思います。この作品で遂に全米アルバムチャート1位を獲得、シングルの方も上述の"You Haven't Done Nothing"が1位、"Boogie On Reggae Woman"が3位と、何とも凄まじい勢い。でもあくまで個人的には、やっぱりヒットした曲の完成度よりも、前の3枚にあったパーソナルさゆえのヒリヒリ感/摩訶不思議感が迫って来る方が恋しいので、それがまだ残っている感じがある、この祈りのような歌を。これは節回しにも歌詞にも非常に瞑想的なものを感じますし、決して完成度が低いとか、そういうものではないのですが、内に向かう姿勢が強い分、カチッとしたまとまりに収まって行かなかった印象があるのです。



 こちらはジョージ・マイケルによる1990年のカヴァー。アルバム"Listen Without Prejudice"に収録、ライブ録音なんだそうで。音程は下げてますが節回しも同じように歌ってます。彼もワンダー氏にはかなり影響を受けてそうですね。ただ、カヴァーというのは役者と台本みたいな関係に思えるんですよね。演ずる人の奥底の何かとセリフが共振した時、より素晴らしいものになるという。そういう意味では、彼がこれをカヴァーした理由は何だったのか、それも興味が湧きます。

"They Won't Go When I Go" - George Michael

 アルバム"Fullfillingness' First Finale" に戻っていくつか気に入っている曲を。

■"Creepin'"
 概して穏やかなこのアルバムを象徴する曲に思えます。よりわかりやすくなったというのは、彼独特のコード進行にも慣れて来たからなのかも知れません。



■"It Ain't No Use"
 彼本人の結婚生活の破綻がテーマらしいのです。そういう転機も確かにあったのかも知れないけれど、とにかく音楽としてより成熟した印象がありますね。



■"Please Don't Go"
 何だかんだ書きましたがやっぱり良い曲書きます。良い曲が多過ぎて目立たない作品も多いのかも知れない・・・そんな気もして来ました。それとハーモニカがやっぱりスティーヴィー節で良いですね。



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by penelox | 2010-03-13 23:30 | Pop Picks

天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (3)

Watanabe's Pop Picks 264
"Golden Lady" - Stevie Wonder
from the album "Innervisions" (1973)

 デビューして10年となった1972年にアルバムを2枚もリリースし、特に"Talking Book"で高い評価とセールスの両方を達成してソウル/R&B界にとどまらないシンガーソングライターとして一気にスーパースターの座へ駆け上がった(それまでももちろんスターではありましたが)と言えるワンダー氏ですが、この段階でなんとまだ御年22歳。翌年には早くもさらに洗練されたこの作品"Innervisions"(全米4位)を発表するという離れ業。このハイペースのリリースは結局74年の"Fullfillingness" First Finale"、76年の2枚組"Songs In the Key Of Life"まで続くのですが、ともかくその才能、飽くなき創造意欲には正直溜息しか出て来ないですね。

 また、時代との幸福な巡り会いも感じずにはいられません。70年代前半の英米のポピュラーミュージックに象徴的に映し出される心象風景を考えてみますと、60年代後半の革命的時代が去ったその後・・・という表現がやはり相応しい気がします。60年代の楽観主義は敗れ去りヘヴィー/ハードな音楽が広がる一方で、傷ついた心を癒してくれる優しさと、それでもどこかで拠り所となる希望を求めていて・・・そういう、基本内省的という印象が強いのですが、それは結局60年代をまだ引きずっていたからだと思うのです。で、そんな内向きに傾いた心情が先進国の若い世代の多くを覆っていた時代を汲み取るかのような、心の音を映像的に自在に描くソングライティング/演奏力と、ソウルフルなエネルギーに溢れたポーカリゼイションを併せ持つシンガーソングライターとなれば、当時の風潮にさぞマッチしたんじゃないかと思います。もちろんワンダー氏自身もそういう時代の空気を無意識にか意識的にか感じ取って創作に取り組んでいたとも思いますが、とにかくこの時代より早くても遅くても、また少し評価が違ったはずで、そういう、同時代と呼応した化学反応というのも、ポピュラーミュージックの面白いところだなあと・・・また見て来たように語ってしまいましたが、いまそう感じるのも事実です。

 実に様々なタイプの音楽が収録されているこのアルバムで一番好きなのが、この楽曲。実に流麗で洒落た展開でありつつも、昨今のこういうタイプの音楽ならついて回る窮屈さが微塵も感じられないんですよね。摩訶不思議な展開には気難さはなく、緩やかさを感じますし、そこに何より無垢な歌詞ともども計算の無い手作りの温かみがある。比較問題に過ぎないかも知れませんが、今の似た様な音楽よりスケールの大きい、幸福なポップミュージックとして響くんですよね。




 "Innervisions" (1973)からもう少し。またしても有名曲よりもこの辺りに個人的聴き所を感じています。

■"Visions"
 美しいがかなり風変わりな展開・・・彼らしさのひとつの象徴では。それにしても、アルバム2曲目にこんな派手さの無い曲を持って来るというのもまた凄い。




■"All in Love Is Fair"
 大変有名なバラード曲で、ご存知の方も多いでしょうけれど、やはりオーソドックスなようで変わったメロディー展開。そしてまたいつもの通り、それは心地良いピアノと神業のVoの力量ゆえに目立たず、わざとらしい計算に妨げられることなく、あくまで自然に伝わって来る・・・。この摩訶不思議でありながら自然な訴求力というのはホントに謎なんですよね(笑)。神が遣わした・・・なんて表現は好みではないのですが、そう呼ばれる作品と言うのは、その絶頂においては、以前挙げたシュープリームスやアレサ・フランクリン、、ティナ・ターナー、ステイプル・シンガーズといった人達にも通じますが、確かに神がかった瞬間を感じるんですよね。ワンダー氏の音楽は、人間の心とそこに訴えて来る音楽の、プリミティヴだが謎めいた関係を図らずも示してくれる気がします。



■He's Misstra Know-it-all
 彼にしてはかなりシンプルな構造な楽曲で、明快で陽気。ファンキーな要素も比較的抑え気味ですが、これは出来るだけ多くの聴き手、つまり社会全体(彼からするとアフリカ系コミュニティーだけではなく、より数の多い白人層も含む)に強く訴えたいメッセージがあったからなのかも知れません。心地良い音楽ですが、歌詞は当時「ウォーターゲート事件」の渦中にあったアメリカ大統領、リチャード・ニクソンへの痛烈な揶揄。



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by penelox | 2010-03-10 00:15 | Pop Picks

天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (2)

Watanabe's Pop Picks 263
"You and I (We Can Conquer the World)" - Stevie Wonder
from the album "Talking Book" (1972)

 彼の存在を知ったのは、いつぐらいだったか・・・中学生ぐらいの時でしょうか、TDKのカセットのCMに彼が登場したんですね。これです。



 調べてみると80年ですから、私中三です。しかしこうやって観ますと、ここの主旨とは関係ないですが、当時は日本のCMも元気でしたねぇ。素晴らしかったとは思わないけれど、金がかかってます。30年経って、こういう時代から、この国は実に遠いところに来てしまったなぁという感慨があります。

 そうそう、そして同じ頃に、東京音楽祭への彼のゲスト出演をTVで観たんだと思います。調べてみると1981年3月29日の第10回大会で特別ゲストとしてライヴをやってます。ちょうど高校入学を間近に控え、混乱と緊張と期待に胸をふくらませていた時期(そしてそれはものの数週間後に消滅するのですが・・・/笑)・・・これだ!



 当時はこと音楽に関しては兄貴にくっついて行くだけだった私、洋楽一辺倒になっていた彼の影響で、当然情報はバンバン入って来ていたのですが、この映像を全部ちゃんと観てたかというと心許ない。それに何より、ワンダー氏の音楽の素晴らしさを十分味わうところまで、耳が進んでなかったようにと思います。中三の段階では洋楽と言うとただひたすら観ては、へえ~、凄いなぁ・・・ひたすらそれだけでしたからね(笑)。

 前回書いた"Music Of My Mind"と同じ1972年に、スティーヴィー・ワンダーはもう一枚アルバム"Talking Book"をリリースしています。このアルバムが全米3位、2枚のシングル"You Are the Sunshine Of My Life"と"Superstition"(邦題「迷信」)がともに全米1位を獲得し、世間で言うところの黄金時代が始まった訳です。ちなみに、前作からの5枚が彼の"Classic Period"5部作であり、これがその2作目、とも呼ばれますが、これは何なのでしょう、本人がそう呼んでるのでしょうか?

 ともあれ、前作より格段にわかりやすくなった作品です。特に上に挙げたヒットシングル2曲が実に明快で、前者は完成された華麗なるスティーヴィー節のポップであり、後者も実に完成度が高く、ファンクさとポップさのバランスが絶妙。80年代のスティーヴィーというと既に完成された音楽を奏でるきらびやかなポピュラーミュージック界の人、という感じでしたから、70年代初めのこの作品で前作の項で書いた様なポピュラリティーを得て行く彼の基本線が完成されたというのがよくわかります。

 だけれども。だけれどもですよ、一際強調しときたいのは、やはり前項で書いたように全体としては相変わらずポップでいて摩訶不思議だということ。それはやっばり、私が個人的に好きな三つ目の線 - つまり美しいバラードにおける、あまり思いつかないような展開を見せるメロディーが、あれっ、ちょっと流れがおかしくなりそうだなと感じさせるその瞬間、スッと解決させて心地良くしまう彼特有のストレンジ・ポップ・マジック。これがやはりあるからだと思うんですよね。技術的にはもちろん、コードそのものの複雑さ、テンションコードの多用とか、また進行そのものの複雑さ(ポール・マッカートニーを比較に出しましたが、そういう意味では同時代のスティーリー・ダンと比較した方が良いような気もして来ました)などと言えてしまいますが、大事なのはおそらくはそれがわざわざ難しくしようと意図したものではなくて、心のなかで聞こえる音世界を頼りに自然と生まれて行ったものに聞こえるということ。たとえ技術的には真似出来たとしても、誰もここまでの歌心に到達出来ない訳で、そこがまぁ、この方のワン・アンド・オンリーたるゆえんなのでしょう。

 と、言う訳で、これぞワンダー氏のストレンジ・ポップ・マジック! ってのを選んでみました。まずはこの、美しいバラード。




 部分部分でポールもしくはウィングス、あるいはELOに通ずるとかよく思うんですが、比較として不適当でしょうか? でも、同時代でこれほど売れた作品ですから、彼らに影響を与えたのかも知れませんよね。それにしても、3:50あたりからの声の尋常でない伸びで展開して行く世界はもう、この方しか行けない場所。宇宙と交信してるかような、別世界の崇高さが漂って来ます。

 アルバム"Talking Book" (1972)からの楽曲をもう少しいくつか、好みのストレンジ・ポップ的な視点から。敢えてヒット曲は外してみましたが、他の曲も常習性(?)を持っていて素晴らしいです。

■"Tuesday Heartbreak"
 彼らしい不思議な、一筋縄で行かない曲。この手のタイプだとジャミロクワイなんかだいぶ影響受けたんじゃないかと思うんですが。




■"Blame It On the Sun"

並の歌い手が気持ちよく聴かせるには実はかなり難しい歌だと思うのですよ。




 ちなみに、この曲を共作したのは彼の元妻である故Syreeta Wright。こちらは1980年の彼女のバージョン。やっぱり難しい歌ですね。



■"Lookin' for Another Pure Love"
 これも日だまり感が美しいんですが、やっぱりちょっと変わった展開ですよね。気持ち良さへ落とすプロセスが上手い訳ですが、彼の場合技術的にやってるというより、どこか神々しいまでの柔らかさ、自然さがあるんですよね。ギターはジェフ・ベックだそうで。




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by penelox | 2010-03-04 23:53 | Pop Picks