「ほっ」と。キャンペーン

<   2008年 03月 ( 35 )   > この月の画像一覧

You've Gotta Hand It To 'Em: The Very Best Of The Waltones - The Waltones (2007)

 80年代後半のマンチェスターを拠点に活動し、Medium Coolレーベルから数枚のシングルとアルバム一枚をリリースして消えて行ったギターポップバンド、ザ・ウォルトーンズの作品を一枚に纏めたベスト盤。メンバーが共通して影響を受けたアーティストとしてデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ、オレンジ・ジュース、そしてビートルズが挙げられている。このなかでは、特にオレンジ・ジュースの流れを汲む印象が強く、朗々と温かみのある歌を聴かせるジェームス・ノックスのVoスタイルにはエドウィン・コリンズに通ずるソウルやカントリーフレイヴァーへの憧憬に近いニュアンスが感じられる。同時代で比較できるアーティストとなるとブラッドフォード、デザートウルヴス、あたりだろうか。彼のハーモニカが時折鳴り響き、のちにシャーラタンズのギタリストとして知られることとなるマーク・コリンズの多彩なギターサウンド(こちらもウェザープロウェッツなどを連想。予算からさほど豪華ではないけれど)と絡む様はやはりスミスを思い起こさせる。楽曲が、決して派手な一点突破はないけれど聴くたびに味わいが増して来るタイプだというのも、オレンジ・ジュース、スミス的。時折聴かれる印象的なオルガンは、当時全英シーンに飛び出して行く寸前のインスパイラル・カーペッツのクリント・ブーンによるものらしい。とまぁ、マッドチェスター寸前の蠢きとそれゆえの不遇に加え、当時英国にいてリアルタイムでは知っていても聴けなかったことも手伝って、全てが未完成なまま終わってしまったその活動ぶりが個人的に同世代として大変気になる存在。まさに青春は一度だけ(苦笑)。

 バンドの歴史を辿れば、84年に9月に最初のギグを行ない、それ以後ライブを重ね87年にデビューシングル"Downhill"を発表したという。ポスト・スミスの動きが加速した当時のインディーシーンにおいて、多くのギターポップバンド達と頻繁に共演しており、89年には唯一の作品となるアルバム"Deepest"をリリースしている。このベスト盤のライナーによれば、レーベルとディストリビューターの衝突からこの作品は残念な事に初回分が出回ったに過ぎないらしく(私も当時雑誌にレビューが出た時探し回ったが見た事がなかった。いずれにせよ、当時英国でインディーのレコードを見つけるのはさほど簡単なことではなかったと記憶している)、その後レーベルが閉鎖されるに至って、バンド名をCandlestick Parkと改名、Midnight Musicからシングルを一枚残している(アルバムも録音されたが未発表とのこと)。

 現在の耳からすると、当時のインディークオリティーの音質や華奢なアレンジゆえに、聴き応えという点からすると物足りないのは否定出来ないとは思う。その辺りが、いわゆる80年代後半のギターポップという括りを飛び越えて今幅広い層に好まれるかどうかについては留保せざるを得ない所なのだけれど、こういう音楽が1988年頃のバブル期の日本と英国を大学生として過ごした私にとっては特に姿勢という面で大きなインスピレーションだったということ、これはあくまで個人的なことだけれど強調しておきたい。かの島から出て来る若い音楽には、普遍的な人間の良性、若さゆえの潔癖性に訴えるものが多々あった・・・当時拝金主義の島に暮しながら何かマトモなことを模索する若者にとって、その煌めきは眩しいほどだったということ、これはいくら書いても書き切れない程なのである。

 もちろんまだ若いがゆえに、全体的に未熟なのは事実だし、そこをフレッシュさで補っているきらいはあるが、リリースごとに技術的進歩を重ねているのもまた事実で、それゆえにもう一ランク上のところでの音楽活動-つまりより豪華な録音で、著名なプロデューサーと組み、日本にまで届くレーベルで作品を出す、ということ。これは、出て来るのがほんの1、2年遅ければ出来たかも知れないから余計に-が見れなかったことが残念でならない人達。お薦めは03 "She Looks Right Through Me"、04 "Special 20"、08 "Spell It Out"、09 "I've Got Nothing"、10 "Thanks a Million"、11 "Everything's Just Fine"、12 "Deepest"、15 "She's Everywhere But Here"、16 "Smile"など多数。他にも、19 "What's Going Wrong"(このまま行けばマンチェスターサウンドに進んでいったかも知れないと思わせる)、21 "Failing in Love"(音がNew Waveの呪詛を抜け出しロックンロールしだしている)、22 "Black & Blue"(歌い方に成熟感があればもっと輝いたであろう曲。バンドの進むべき道を指し示していたようにも)といった面白い曲、また未発表ながら彼等のポテンシャルを示す2曲が収録されている。
[PR]
by penelox | 2008-03-31 13:42 | CD備忘録

Flying - Nice Little Penguins (1994)

 アコースティック感覚を活かしたギターサウンドと美しいハーモニーをフィーチャーした、メロディアスなポップを奏でるデンマークの三人組、ナイス・リトル・ペンギンズ。曲によってはビートルズ、ニック・ロウあたりを連想するが、マニア度が高い訳ではない。相応しい言葉がなかなか見つからないが、01 "Rain Keeps O Falling"や02 "Sandy"など、素直と言えば素直だけれど、どこかにくすんだような色彩や翳りがあり、爽快で明るい感じばかりでない。徹底的に楽天的でもない - そこが北欧らしいのかも知れない。一転03 "Beatniks"のようなエレクトロポップを当たり前のようにこなす。そのバランス感覚が04 "Flying"のようなヨーロッパ的な色彩と明るさを併わせ持つ名曲、英米ポップロックを彼等なりに吸収した05 "So Glad To Be Alive"のような作品に繋がっているのだろう。
[PR]
by penelox | 2008-03-29 10:57 | CD備忘録

H.M.S. Fable - Shack (1999)

 リヴァプールの至宝、元ペイル・ファウンテンズのマイケル・へッド率いるシャックの(長くお蔵入りになっていたアルバム"Waterpistol"を含めるとおそらく)通算3枚目、実質的には再編と言ってもいいぐらい、実に久々だったアルバム。

 これが出た当時は、かつてのネオアコースティックへのノスタルジーを持つ世代の音楽ライターを中心に結構話題になっていた。私にしてもリアルタイム世代だから、一曲目の"Natalies's Party"はその頃PVに触れ、やはり懐かしさに見入ってしまったのを覚えている(「おお、マイケル・へッドが動いている!」といった類いのもの)。しかし冷静に考えてみれば、当時(99年)でも彼等のことをリアルタイムで知る世代は現役のロックファンのなかでは既に少数派であったはずで、ブリットポップや野外フェスで音楽的アイデンティティーを形成した世代に受け入れられそうな要素がかなりあったからこそあれだけ話題になったのだなと、改めてじっくり聴き、感じ入る。80年代前半/半ばのペイル・ファウンテンズの頃とくらべると、ずいぶん(当時なりの)当世風ぽくなったというか、90年代におけるオアシスの世界的成功の影響なのだろうけれど、英国北部ワーキングクラスとしての意識の表出と思われる要素がずいぶん強まったことが感じられる作品なのだ。もちろんあのマイケル・へッドの持ち味である繊細なソングライティングや彼の音楽らしいアレンジもところどころうかがえるのだが、歌い方やメロディーにダイナミックさや野郎っぽさがずいぶんのして来ている。分厚くなった音像を聴きながら、時代の経過を考えれば自然なことなのだろうとは思う。思うけれど、その当世風な部分にはもうひとつ惹かれないのもまた事実であったりもする。非常に身勝手なことに、あの若さゆえの頼り無さ、か細さをどこかで切望していたりするのだ。ストランズでの穏やかな夢幻感覚がペイル・ファウンテンズの1st "Pacific Street"のある意味発展形だったから、シャックは2ndの"...From Across the Kitchen Table"的ギターサウンドの流れを汲むと考えればいいのだろうか。自然に受け止められるには、もう少し聴き込みが必要かも知れない。シャックの1st "Zilch"もまた手かがりになるかも知れない。いずれにせよ、思春期に出会ったアーティストの音楽には、様々な思いが去来する。
[PR]
by penelox | 2008-03-29 10:51 | CD備忘録

Summertown - The Mayflies USA (1999)


 ジャケットから伝わるムード、メンバー写真だと若そうには見えるが、結構服装は地味だし、全体に都会的なハッタリ感は皆無。ノースカロライナ州チャペルヒルのバンドらしいので、南部的なのんびりした感じ、ビッグスターや初期REM、ウィンドブレイカーズ、レッツ・アクティヴ、コネルズみたいな感じかなと思っていたら、まさにそんな感じ。メロディーがどうというより、何より流れている空気、匂い立つ草木感というか土臭さが心地良い。アメリカのバンドと言ってもニューヨークやロスのバンドとくらべると全く違う時間が流れてるんじゃないかと思ってしまう。何でも同じ方向に行きがちな日本にいる者からすると実にうらやましい限り。

 プロデュースが元dB'sのクリス・ステイミー。その名前でイメージさせるほどの捻りや神経質な感じはないけれど、彼等にはおそらく持って生まれた素朴なポップセンスと温かいグルーヴ感があり、そのバンドの聞かせ所と瑞々しい息遣いを微睡むような南部の空気にうまく収めていると思う。クレジットにスコット・リットやミッチ・イースター、ジーン・ホルダー、ジャネット・ワイガルといった懐かしい名前があるのも、南部音楽シーンの充実ぶりを感じさせる、彼等のデビューアルバム。06 "NYC"、07 "The Apple"、08 "The Stepford Wives"、09 "Baby's Got Her Own Ideas" 、11 "Summertown"と聞き所は多い。
[PR]
by penelox | 2008-03-27 13:21 | CD備忘録

Number One Fan - Barely Pink (1997)

 ベイビー・レモネード、ワンダーボーイ、ワンダーミンツ・・・同時代の良心的パワーポップバンドの名前が織り込まれ、ロサンゼルスへの憧れが歌われて行く01 "City Of Stars"が何といっても白眉の、フロリダ州セントピーターズバーグの4人組ベアリー・ピンクによるデビューアルバム。Vo/Gのブライアン・メリルが言うところの「パワーポップとみんな呼ぶけど、ただのロックンロール」な作品、その肝は、キャッチーなフックとエネルギーを持ったタフなギターサウンド。あえて比較すれば初期ロマンティックス、チープトリック、インメイツ・・・つまりは、チャック・べリーから始まりビートルズ初期からローリングストーンズで完成された元気なロックンロールギターサウンド。90年代後半のパワーポップ草の根運動から出て来た人達だけれど、マニアック感は無し。ジャケットの扇風機(Number One Fan・・・一番の愉しみ、という意との洒落ですな)が送って来るのは、フロリダならではの眩しい陽光と爽やかな風。

(追記: 「愉しみ」(fun)じゃなくて「ファン」(fan)とかけてる、と考えた方が正しいでしょうね。今気付いたので補足。)
[PR]
by penelox | 2008-03-27 13:15 | CD備忘録

Crocodile Tears - The Chesterfields (1988)

 軽快でキャッチーな"Lunchtime For the Wild Youth"でスタートするチェスターフィールズの2ndアルバム。とっても懐かしい音の作品だが、じっくり聴くと色んな意味で1stとは違う。まずリリース先が、前作"Kettle"が出たSubwayではなく、Householdという自分達で設立したレーベル。メンバーも、サイモン(B/Vo)の弟マーク(G/Vo)が加入している。また、楽曲が1stほどシンプルではなく、ギターサウンド主体ながら、ホーンを入れたりリズム面でもずいぶんと工夫している。その結果、1stの勢いやわかりやすいポップさはやや後退したので、それがもうひとつギターポップバンドとしてのアピール不足に繋がってしまったのかも知れないけれど、要するに成長した訳で、音楽的には前作より発見が多い、面白い作品。

 個人的には微妙にビブラート(こぶし?)の入るデイヴィー(G/Vo)が歌う軽やかな曲が好みなので上述の01をはじめ、キンクスやモノクローム・セットにも通ずるユーモラスな温かみのある04 "Hopes For Lauren Or Joseph"、メロディックさを抑えファンキーに迫るところがこれまでとはずいぶん違う"Get Some Religion"、いかにもチェスターフィールズ節と弾むリズムがまた彼等らしい07 "Twintown"、ゆったりとした09 "Besotted"、このあたりがかなり気に入っている。1stでは代表曲といえる"Ask Johnny Dee"を歌った太い声のSimonが歌う03、10(ジャムっぽいギターが珍しい)、ギターとベースのアンサンブルにスミスっぽさとレゲエの裏打ちを意識したかのような実験的な12、一転14はいかにもまた彼らしくほのぼのとしている。また、新加入のマークが歌う02 "Alison Wait"、06 "Let It Go"はいかにもインディーポップぼいものとなっていて、オリジナルメンバーほどの魅力はないけれど、それなりに彩りを添えている。スキッフルっぽい11も彼が歌っている。そう言えばスミスがまさにそうだったけれど、スキッフル、ロカビリーを捻ったようなノリもネオアコ/ギターポップの面白さであった事を思い出した。13もそんなニュアンスがある。初期オレンジ・ジュース、モノクローム・セット、初期スミス、ジャズ・ブッチャーなどのテケテケペナペナした(良い意味ですよ、もちろん)ギターサウンドが好きな向きにお薦め。
[PR]
by penelox | 2008-03-26 10:07 | CD備忘録

だいたいで、いいじゃない。(吉本隆明、大塚英志・著/文春文庫)

 タイトルだけだと何の本か全く見当がつかないですが、この顔合わせだから論壇、文壇、サブカルチャーについての話なのかなと想像して手に取ってみると、「だいたい」そうであった。で、タイトルに反するように、それらを全体的に、「だいたい」で包括するのではなくて、非常に偏った、かつ重箱の隅をつつくような話 - 90年代末の「エヴァンゲリオン」現象について「おたく」第一世代(どうも1958年から1960年あたりの生まれの人達をそう呼ぶようだ)の立場から大塚氏が「思想界の巨人」吉本氏に解説、で、江藤淳については逆に大塚氏が「こうなのかな・・・と」と持論を振り、それをもとに吉本氏が滔々と語る・・・お互いの得意分野について、こういうパターンで進んで行くちょっと風変わりな対論。お互いが一人で述べる時間が長い長い(桂小枝師匠風に脳天から言う感じで)。

 アニメに関しては、所謂ガンダム以降に全然興味が持てない(持たせてくれるような文章に出会ったことがない)し、「エヴァ」も正直言って食指が動かないのだけれど、作者は「帰ってきたウルトラマン」の熱狂的ファンであるということが少し気になる(苦笑)し、私より若い世代だとこのふたつ(「ガンダム」と「エヴァ」)は必須のようなところがあるので、これを読んで少しは勉強しようかなと期待したのだが、う〜ん・・・残念ながらますます疎遠になりそうだ。江藤淳論については大変面白かったし勉強になったけれど、正直、一体どういう層に向けて作られた本なのだろうかと思ってしまう。また、タイトルも内輪受けを意識し過ぎというか、少なくとも私には意図がわからなかった、なんとも立ち位置の不思議な書。あとがきが富野由悠季氏による「もっとだいたいでいいじゃないか」というのは、言う得て妙。
[PR]
by penelox | 2008-03-26 09:57 |

Greatest Hits Vol. One - Superstar (1992)

 時代を越えた普遍的なソングライティングの才能を持つアーティストは、しっかり評価し、伝えて行きたいもの。特に自戒も込めて、80年代後半から90年代に入った頃に出て来た人達。改めてこの時期は、音楽業界が大きく変わり、商業主義がずいぶんと、アノ手コノ手で巧妙になって行った時代だったと思い出す。メジャーとメディアの結託は強まり、インディーの美味しいところを効率良く剽窃することを覚えてしまい、金さえあれば誠実さのイメージなどいくらでもかぶれるようになってしまった。それゆえ、インディペンデントでいることの意味さえ見え難くなってしまった・・・つまりは、心ある音楽の微妙なニュアンスがずいぶん伝わり難くなってしまったのだ。かといって、良質のものが省かれ、こぼれ落ちて行く様をただ横で傍観者のごとくみている訳にも行かない・・・これは、その時代の心ある英国音楽とともに育った人間としての偽らざる思い、ある意味責務でもあるように思います。そういう意味で、音楽都市グラスゴーが今これほど脚光を浴びる事態に至って、このアルバムの主人公、ジョー・マカリンデンがいまだ才能と知名度においてこれほどまでにつり合わないのもまたひどい話だということ、これもまた伝えておかなければいけない訳で。Groovy Little Numbersを経て彼が90年代にはじめたバンド、スーパースターの6曲入りミニアルバム。我が世の春を謳歌することとなるクリエイションから出たにもかかわらず、90年代の英国におけるマンチェ〜ブリットポップ、あるいは米国のグランジ〜オルタナの隆盛期においてメジャーなところに居場所がなかった気がするのは、やはり「傑出したシンガーソングライターのいるバンド」という実態が非常に80年代的だったからだろうと思う。こういう資質を持つ人達はNew Wave時代には大いに受け入れられたのだが、たいていの場合その後ライブを辞めたり、バンドスタイルを捨てたりと、その後時代を経て移行して行った。少し後の時代になって出て来た彼のようなタイプはだから当時圧倒的マイノリティーで、そこでバンドイメージを上手く使ってメディアを遊泳出来れば良かったのだが、あくまで不器用に自分の資質と望むものに従った・・・この辺りはとても他人事に思えない、時代(というよりも経済的理由に基づく流行)によって弾かれた非常に残念な例と言うほかない。

 02 "The Reason Why"、03 "She's Got Everything I Own"、05 "Taste"ではセンスのあるメロディーを書くTFCに近い90'sギターバンドという雰囲気に留まっているが、ピアノが導く04 "Let's Get Lost"になると、いきなり楽曲のクオリティーがランクアップする。彼のワンマンバンドであるということ、大変に凝集力のあるポップクラシックを作り上げてしまえる才能がわかってしまうのだ。この曲だけで、つまりはアルバムの他の曲のようなタイプよりは、ポール・マッカートニー、ブライアン・ウィルソン、トッド・ラングレン、エリック・カルメン。こんな人達と連なる本格的メロディーメイカーの路線に向いていることがわかってしまう。「バンドええじゃないか」的浮薄な時代にこんな小粋で律儀な楽曲。こんな名曲が92年の英国で書けてしまったのが彼の、そしてこのバンドの不幸だったと思う。
[PR]
by penelox | 2008-03-25 10:57 | CD備忘録

The Eternal In A Moment - The Snapdragons (1990)

 80年代末に活躍した英国リーズ出身のバンド、スナップドラゴンズのコンピレーション。1988年当時英国留学中の私は、ジョン・ピールのラジオ番組やNME、Melody Makerといった音楽紙で取り上げられる新しい音楽、特にギターポップバンドをよくチェックしていた。彼等もそういったところの小さな記事で知り、シングル"The Things You Want"がリリースされるやリアルタイムで買い、気に入ってよく聴いていたのだった。当時の印象としては、バンド名のイメージからすると意外に攻撃的なギターが特徴的で、スミスなどの延長線上にはあるけれど可愛気のあるギターポップというのではなく、むしろウルフハウンズやザットペトロール・イモーションに近い線、という感じ、つまりは、際立つ程個性的というのではないもののいかにも当時らしい硬質のギターバンド・・・そういう印象だった。89年にはアルバムが一枚出たようだが、それは未聴。この編集盤はその後バンドの意向に反して出たものらしい。

 このシングルコンピ、もちろん上述のシングルも収録されていて、この曲はホーンが入ったり比較的おだやかにギターポップしているが、明らかに激しい感情が底に流れている感じがするし、他の曲を聴くと上に書いたような印象は今も変わらない。上の2バンド程激しくはないが、当時の英国シーンを思い出せば、スミス以降で知的な、心ある人間がインディペンデントな姿勢でアートポップ/ロックを目指せばこういう音楽になっただろうな(もしくは、なるしかなかっただろうな)という感じは非常にする。あえて比較すればアイルランドのA Houseに近い感じだろうか。この時期というのは所謂マッドチェスターとの入れ替えの時期で、こういう、もやもやしていて、感情が押し殺されたように底に渦巻くタイプの音楽、つまりは安心感を与え難いくせにポップだったりするわかりにくい重層的構造を持つ音楽は英国でもさらに隅に追いやられてしまうのだが、捨て置けないものは多い。もう一度この時代の音楽をしっかり聴いて、そろそろ何でもかんでも「ギターポップ」という単色で見て使い捨てるだけではなく、その様々なバンドのカラフルな様相をひとつひとつ検証してみる必要があるのではないだろうか。"The Eternal In A Moment"、"The Things You Want"といった曲達は彼等のメロディック・サイドを代表する傑作。エキセントリックな"Get Inside Me"、感情を押し殺したように進む"Indifference"、悲しみが広がる"Admit To Me"、スミスの匂いも強い"Lies"。弾き語りでさらに歌心が剥き出しになった"Sister When"、弾き語りから後半一転して激しく迫る"Poor Man's Hand"など、硬派のギターバンドの側面とフォークっぽいシンガーソンガライター的資質のあいだで揺れ動く感がこの中心人物ジェームス・テイラー(もちろんあの70年代の人とは別人)にあるのは興味深い。この後音楽活動を続けなかったようなのは残念。
[PR]
by penelox | 2008-03-24 11:52 | CD備忘録

Tell God I'm Here - Hurrah! (1987)

 英国北部ニューカッスルの名レーベル、キッチンウェア。この名前を書くと、80年代半ば当時の英国地方都市における音楽シーンの百花繚乱ぶりを思い出し、何か熱いものがこみ上げて来るのは私だけだろうか。プリファブ・スプラウト、ケーン・ギャング、マーティン・スティーヴンソン&ザ・ディンティーズ、そしてこのフラー!。いまだに巷で括られるような「ネオアコースティック」と呼ばれた流れを正しく把握するのには、実はジャズもソウルもフォークも、そしてこのガレージポップも取り込んだ、このレーベルの幅広さが結構相応しいかも知れないと思ったりもする。

 そのなかでも彼等は個人的には一番身近に感じたバンド、初期シングルの編集盤"Boxed"はそれこそ擦り切れる程聴いたにも関わらず、1stが出た87年には、もはや聴きたい音楽が多過ぎて結局聴くタイミングを逸してしまったという苦い想い出のあるバンド。だからこの再発CDにしても、はじめて聴くことになるアルバム曲は少々恐くて、まずはボーナストラック11 "Gloria"から行ってしまう。これを聴いたのはハタチの頃。その後何度も聴いたにもかかわらず、何よりひたすら懐かしさの方が先に立つ。凛としたところはペイル・ファウンテンズの2ndを思い出すけれど、疾走感、情熱、ソングライティングの巧さ、ベタベタしない程度の青さと湿り気は彼等だけの世界。

 85年のこの名シングルが全く古びていないことを確認して安心したところで、ボーナストラックを経てアルバムをはじめから聴いてみる。鋭角的でアルペジオ主体の懐かしいギターサウンドと熱い歌。80年代の半ばの英国北部の風景、スミスやエコー&ザ・バニーメンが主導したあの時代の風景、そして匂い、空気感が一気に立ち現れて来る。しかしそれだけではなく、イングランド勢としては当時珍しかった熱い高揚感 -たとえば初期のアンダートーンズやプロテックスに通ずるガレージポップさ、ブレイズに通ずる熱 -も強く感じられる。つまりはアイルランド勢にも通ずる彼等なりのストレートなソウル感覚があるのだ。また、ふたりのソングライター、ポール・ハンディーサイドとデヴィッド・ヒューズの個性の違い、そしてそのふたつの色が上手い具合に絡み合ってフラー!の色が出来上がっているのだということもよくわかった。余談だがヒューズの声が当時ビフ・バン・パウ!のアラン・マッギーに酷似していて面白い。03 "Sweet Sanity"の、(CCRやバーズにも通ずるかも知れない)ロックンロール/R&Bのソングライティングを英国的ギターサウンドでパワフルに展開させた感じが、いかにも彼等らしいと思う。04の音像には最初スミスの影と思わせる陰鬱感が音に染み付いているけれど、次第にスケール感を持って盛り上がって行く。ベーシスト、デヴィッド・ポーターハウスのアルバム中唯一の曲、威勢の良い05でA面を締める。

 アルバムだとB面一曲目となる06 "How Many Rivers"は、ゴスペル的と言っても良いぐらいの高揚感をポテンシャルとして持っている(12インチバージョンの15は特に)名曲。後のマンチェ期にプライマル・スクリームやスープ・ドラゴンズがやったようなダンスチューンにドレスアップしたら売れたんじゃないだろうか、そんな気さえする。しかしおそらく彼等は頑固に普遍的な誠実さにこだわったのだろう。その後もアレンジを極端に変えることなく、あくまで英国流ギターバンドサウンドを崩すことなくソウル、ロックンロール、フォークに影響を受けた「フラー!の音楽」を展開させている、その印象は少年ぽさが少し残るヒューズの07、ひたすら熱く迫るハンディーサイドの08と曲を聴き進めるだに深くなる。フォーマットだけみれば、徹底してギター主体のいわばネオモッドとガレージポップ/インディーギターポップ、パワーポップの三角地帯にあるような音を追求・・・考えてみればこういったスタイルは90年代以降になるとさらに世界的に草の根レベルでの広がりを見せるのだけれど、しかしそういった音楽のアキレス腱になりがちな、カテゴリーに殉じ過ぎるがゆえの閉塞感は微塵も感じられない。音楽がムラに自閉することなく、どこまでも聞き手の心に誠実に曲そのものを、その質でもって差し出している、これも「ネオアコースティック」と括られた音楽に通ずる時代精神の一端であったことを思い出した。それを87年の段階で、しかもメジャーレーベルで展開させたことに、(売る事だけ考えればタイミングの悪さと取られるかも知れないが)意義があると思う。革ジャンが似合う彼等はしかし一方では09のようにフォーキーに英国北部の物語を綴るのも忘れていない。このへんの要素もまた、彼等を単なるガレージポップ・リバイバリストに終わらせていないところで、それがまさにこの時代らしくて良い。

 20数年前のアルバムなのに、自分の身体の一部として細胞のどこかで生きてたんじゃないかと思わせる、そんな近しい音楽。当時感じていた彼等の聴き所に感覚が無意識に反応するのがわかった、そんな貴重な経験をさせてもらった気がする。個人的ベストトラックは03 "Sweet Sanity"、06 "How Many Rivers"、08 "Miss This Kiss"。ボーナストラックの"Gloria"は個人的にクラシックとして殿堂入りしているため対象外(笑)。
[PR]
by penelox | 2008-03-21 14:44 | CD備忘録