天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (3)

Watanabe's Pop Picks 264
"Golden Lady" - Stevie Wonder
from the album "Innervisions" (1973)

 デビューして10年となった1972年にアルバムを2枚もリリースし、特に"Talking Book"で高い評価とセールスの両方を達成してソウル/R&B界にとどまらないシンガーソングライターとして一気にスーパースターの座へ駆け上がった(それまでももちろんスターではありましたが)と言えるワンダー氏ですが、この段階でなんとまだ御年22歳。翌年には早くもさらに洗練されたこの作品"Innervisions"(全米4位)を発表するという離れ業。このハイペースのリリースは結局74年の"Fullfillingness" First Finale"、76年の2枚組"Songs In the Key Of Life"まで続くのですが、ともかくその才能、飽くなき創造意欲には正直溜息しか出て来ないですね。

 また、時代との幸福な巡り会いも感じずにはいられません。70年代前半の英米のポピュラーミュージックに象徴的に映し出される心象風景を考えてみますと、60年代後半の革命的時代が去ったその後・・・という表現がやはり相応しい気がします。60年代の楽観主義は敗れ去りヘヴィー/ハードな音楽が広がる一方で、傷ついた心を癒してくれる優しさと、それでもどこかで拠り所となる希望を求めていて・・・そういう、基本内省的という印象が強いのですが、それは結局60年代をまだ引きずっていたからだと思うのです。で、そんな内向きに傾いた心情が先進国の若い世代の多くを覆っていた時代を汲み取るかのような、心の音を映像的に自在に描くソングライティング/演奏力と、ソウルフルなエネルギーに溢れたポーカリゼイションを併せ持つシンガーソングライターとなれば、当時の風潮にさぞマッチしたんじゃないかと思います。もちろんワンダー氏自身もそういう時代の空気を無意識にか意識的にか感じ取って創作に取り組んでいたとも思いますが、とにかくこの時代より早くても遅くても、また少し評価が違ったはずで、そういう、同時代と呼応した化学反応というのも、ポピュラーミュージックの面白いところだなあと・・・また見て来たように語ってしまいましたが、いまそう感じるのも事実です。

 実に様々なタイプの音楽が収録されているこのアルバムで一番好きなのが、この楽曲。実に流麗で洒落た展開でありつつも、昨今のこういうタイプの音楽ならついて回る窮屈さが微塵も感じられないんですよね。摩訶不思議な展開には気難さはなく、緩やかさを感じますし、そこに何より無垢な歌詞ともども計算の無い手作りの温かみがある。比較問題に過ぎないかも知れませんが、今の似た様な音楽よりスケールの大きい、幸福なポップミュージックとして響くんですよね。




 "Innervisions" (1973)からもう少し。またしても有名曲よりもこの辺りに個人的聴き所を感じています。

■"Visions"
 美しいがかなり風変わりな展開・・・彼らしさのひとつの象徴では。それにしても、アルバム2曲目にこんな派手さの無い曲を持って来るというのもまた凄い。




■"All in Love Is Fair"
 大変有名なバラード曲で、ご存知の方も多いでしょうけれど、やはりオーソドックスなようで変わったメロディー展開。そしてまたいつもの通り、それは心地良いピアノと神業のVoの力量ゆえに目立たず、わざとらしい計算に妨げられることなく、あくまで自然に伝わって来る・・・。この摩訶不思議でありながら自然な訴求力というのはホントに謎なんですよね(笑)。神が遣わした・・・なんて表現は好みではないのですが、そう呼ばれる作品と言うのは、その絶頂においては、以前挙げたシュープリームスやアレサ・フランクリン、、ティナ・ターナー、ステイプル・シンガーズといった人達にも通じますが、確かに神がかった瞬間を感じるんですよね。ワンダー氏の音楽は、人間の心とそこに訴えて来る音楽の、プリミティヴだが謎めいた関係を図らずも示してくれる気がします。



■He's Misstra Know-it-all
 彼にしてはかなりシンプルな構造な楽曲で、明快で陽気。ファンキーな要素も比較的抑え気味ですが、これは出来るだけ多くの聴き手、つまり社会全体(彼からするとアフリカ系コミュニティーだけではなく、より数の多い白人層も含む)に強く訴えたいメッセージがあったからなのかも知れません。心地良い音楽ですが、歌詞は当時「ウォーターゲート事件」の渦中にあったアメリカ大統領、リチャード・ニクソンへの痛烈な揶揄。



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by penelox | 2010-03-10 00:15 | Pop Picks


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