天才シンガーソングライター/マルチプレイヤーのストレンジ・ポップ・マジック (4)

Watanabe's Pop Picks 265
"They Won't Go When I Go" - Stevie Wonder
from the album "Fullfillingness' First Finale" (1974)

 私はソウル/R&Bとか、ロックとかの区別とは別に、基本的にシンガーソングライター指向(シンガーソングライターがいるバンドが理想。なので、ビートルズとかコステロ、XTC、スクイーズ・・・や、ネオアコースティックと呼ばれる人達の流れが好きだったんだと思います)なので、そういう方の音楽に関してはついつい分析的になってしまいますが、もう少しおつきあいください。

 "Music Of My Mind"から"Songs In the Key Of Life"までの5枚を5部作とか"Classic Period"と呼ぶらしく・・・ということを書きましたが、本人がそう言ってるにせよ、音楽評論の世界でそう結論づけられてるにせよ、聴いて行きますと最初の3枚と、この4枚目となる所謂「ファースト・フィナーレ」では、実際のところずいぶん音の感じが違う印象があります。ぶっ飛んでないというか、カチッと常識の範囲内に収まっているというか、ともかく天才ゆえの常人離れした感覚がこの作品では少し薄れた感じがするんですね。。完成度の高い、良いアルバムだとは思うんですが、シングル曲の"You Haven't Done Nothin'"(邦題「悪夢」)や"Boogie On Raggae Woman"(邦題「レゲ・ウーマン」)の賑やかさキャッチーさで気付きにくいけれど、他の楽曲は前3作と比べると実はずいぶん落ち着いていて、重厚なんですよね。その結果、全体としてはシングルとアルバムをきっちり分けて役割分担してるという計算性というか、隙のない、手堅い優等生と向き合ってるような感じがどうもつきまとうんです。きっと手作り風ポップ好みの私としては、人間的なゆらぎというか、訳のわからなさが少々恋しいんだと思います、前はもっとへんてこりんでしたやん、みたいな(笑)。まぁ、まだ聴き込みが足りないだけなのかも知れませんのであくまで今の印象に過ぎませんけどね。

 この頃のスティーヴィー・ワンダーに関してよく知られるエピソードなどを元に、そう感じる理由を色々分析してみますと、まず何より前の2枚"Talking Book"、"Innervisions"で大変なポピュラリティーを獲得したことが大きいのかなと。それによって、守りに入ったとは思わないけれど、どうやったら大衆に受けるか、本人か、周りのスタッフかはわかりませんが、それが意識的か無意識的かは別としてかなり身に付いて来たんじゃないかということ。それと彼の音楽家としての人生の大きな転機として挙げられる、73年夏の交通事故。もしかしてこの作品の録音はそれ以前だったのかも知れないので断定は出来ませんけれど、生死の境を彷徨い、一時は味覚まで失ったことから、そのリハビリのなかで慈善事業や平和活動などの社会貢献に目覚めたという事がよく記述されています。そうだとすると、この大変な試練のなかで、誰に向けて何を歌うか、どう歌うか、それらが彼自身の心の中ではっきりと整理されて行ったのではないかなと。もちろんそれは素晴らしいことですし、以後もワンダー氏は創造性溢れる音楽家であり続けたとは思いますが、おそらくシンセサイザーと気侭に戯れることで結実したのであろう彼独特の音楽 - 心の流れのままを描く、という行為ゆえに時に官能的でもあった - にあった未整理ゆえの自然な摩訶不思議感は、沢山の人に伝え続けるという目的のもとに、ここで大きな転換期を迎えたのは事実ではないでしょうか。

 ともあれ、ストレンジ・ポップな部分はずいぶん減退したと思うのですが、ポピュラーミュージックとしてはよりわかりやすくなったと思います。この作品で遂に全米アルバムチャート1位を獲得、シングルの方も上述の"You Haven't Done Nothing"が1位、"Boogie On Reggae Woman"が3位と、何とも凄まじい勢い。でもあくまで個人的には、やっぱりヒットした曲の完成度よりも、前の3枚にあったパーソナルさゆえのヒリヒリ感/摩訶不思議感が迫って来る方が恋しいので、それがまだ残っている感じがある、この祈りのような歌を。これは節回しにも歌詞にも非常に瞑想的なものを感じますし、決して完成度が低いとか、そういうものではないのですが、内に向かう姿勢が強い分、カチッとしたまとまりに収まって行かなかった印象があるのです。



 こちらはジョージ・マイケルによる1990年のカヴァー。アルバム"Listen Without Prejudice"に収録、ライブ録音なんだそうで。音程は下げてますが節回しも同じように歌ってます。彼もワンダー氏にはかなり影響を受けてそうですね。ただ、カヴァーというのは役者と台本みたいな関係に思えるんですよね。演ずる人の奥底の何かとセリフが共振した時、より素晴らしいものになるという。そういう意味では、彼がこれをカヴァーした理由は何だったのか、それも興味が湧きます。

"They Won't Go When I Go" - George Michael

 アルバム"Fullfillingness' First Finale" に戻っていくつか気に入っている曲を。

■"Creepin'"
 概して穏やかなこのアルバムを象徴する曲に思えます。よりわかりやすくなったというのは、彼独特のコード進行にも慣れて来たからなのかも知れません。



■"It Ain't No Use"
 彼本人の結婚生活の破綻がテーマらしいのです。そういう転機も確かにあったのかも知れないけれど、とにかく音楽としてより成熟した印象がありますね。



■"Please Don't Go"
 何だかんだ書きましたがやっぱり良い曲書きます。良い曲が多過ぎて目立たない作品も多いのかも知れない・・・そんな気もして来ました。それとハーモニカがやっぱりスティーヴィー節で良いですね。



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by penelox | 2010-03-13 23:30 | Pop Picks


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