from album "Parklife"(1994)
11/9 他の本と並行して「渡邊恒雄 メディアと権力」(魚住昭・著)を読み始める。 余りの面白さ(苦笑)に、他の本を投げ出す。 非常にスリリングに読める...フィクションとして読めば。 凄いなあと尊敬する...想像上の人物として見れば。 これほどの行動力と戦略に長けた策士はもう不世出だなと、感嘆を禁じ得ない...ジャーナリストと考えずに読めば。 しかしこれは、読売新聞という世界一の発行部数を誇る大新聞社の、メディアという権力を握る、新聞記者/ジャーナリスト出身たる実在の、まさに日頃メディアをにぎわすあの、「ナベツネ」こと渡邊恒雄氏を周囲への取材から描き出した、渾身のノンフィクションなのである。読んでるうちに、暗澹たる思いに囚われ始めるのは、これが現実だからである。 まだ読み進めている段階だが、改めて、権力と対峙し、その横暴を常に見張る「番犬」としての役割を、これほど最初から綺麗さっぱり持ち合わせていない、市民の側に対して果たすべき役割を、これほど新聞社入社の最初の一歩から一顧だにしない(権力の亡者たる)人間が、大新聞社の社長にまで昇り詰めたと言う事が、恐ろしいことではないと、この国の不幸ではないと、どうして言及されないのか、甚だ疑問。私はたとえば朝日が良い新聞とも、これっぽっちも思っていない(というより、どこの新聞も、十分に警戒して読むべき、そう思っている立場)けれど、こんな新聞、安かろうがお得だろうが、まともに評価できる訳がない。非常に危険。 プロ野球ファンも、そうでなくとも、必読。 これ読んで、それから読売新聞を読むのも良いかも知れません。そして、どのへんに彼の政治的意図が隠されているかを見つけるのも知的ゲームとしては良いかも知れない。 彼の遠隔操作はあちこちに張り巡らされている。たとえば、「TVタックル」や「たかじんのここまで言って...」といった番組で保守論客として活躍する三宅久之氏はナベツネの盟友である(というより、良き理解者、メッセンジャーか?)。 たとえば、ワイドショーによく出演なさっているジャーナリストの大谷昭宏氏をご存じだろうか。彼は大阪読売の良心としてよく知られた「黒田軍団」で黒田清氏(残念ながら数年前に死去)の部下だった人。「黒田軍団」は戦争についての独自の視点の記事が多く、高い評価を得ていたが、ナベツネによって潰された。そして大谷氏はいまだに日テレの番組には出ない。 また、最近エラいデカデカと広告が出た「渡邊恒雄回顧録」を出版した中央公論新社は、読売が買収した出版社。買収したのはかつて入社試験で落とされた私怨だと実しやかに語られる。前に書いた林信吾氏の件もあった。 このように実際、言葉にならない、表にあらわれないけど、プロ野球のみならずナベツネが絡んだ政治的動きというのは、たくさんあるのだ。彼の言葉、行動には全てある計算がある。自分が権力の中枢に居座り続けるための計算である。 だから、文化や芸術、という点に関して言えば、彼がたとえば野球というものに、何の愛情もないのは当然のような気がする。 たとえばナベツネは60年代終わりから70年代初めに3年ほど読売新聞ニューヨーク支局長だった。その頃のアメリカというのはホントに文化的に興味深い時代で、普通新聞屋ならそれぐらいは興味があったのかと思いたいところだが、まるでそんな記述はない。あくまで会社内での出世、権力闘争、さらに自民党内の権力闘争に終始しているだけで、ジャーナリストならここからスタートすべきである人間というものへの良心的理解とはまるでかけ離れている。こういう人間が真の意味で音楽を含めて文化や芸術への深い理解や愛情があるはずもなく、仮に音楽を聴いていたとしても、おそらく権威/体制の中での流行り廃りの情報だけを頼りに虚勢を張っていたのが関の山、という推測は秒速で成り立つ(えっ、新聞記者なんて所詮そんなものだって?)。 これを言うのは非常に空しいが、こういう類いの人間が非難されなかったのは、逆に言えば決して珍しいことではなかったからだ。つまり、あまりに急激に近代化を成し遂げた国の、余裕がないがゆえの貧しい文化状況があり、人間の有り様があり、そこは理解してあげなければと、手加減が入る訳だ。そして手加減している手合いは、実はある意味同類であり、ある意味個としての勇気、強度がなかった訳だ。そして、そういう心の貧しい人間たちがいまだに権力、メディアを支えているところにこの国の不幸があるといっても過言ではない。 最後の解説の、佐野眞一氏の言葉。 「しかし、読後に残るのは殺伐たる物語の後味の悪さである。... ここに展開されているのは、嫉妬と妄執と野心に身を焦がされた男たちの暗澹たる世界である」 こんな、今となっては前時代的な、全く外に開かれた視点のない人間たちが培って来た哲学、そしてそれをもとに作られた国家観、人間観が相当寒いものであるのは言うまでもないだろう。ただ知識を(見栄やかっこつけのために)吸収するんじゃなくて、それをもとにグランドデザインを描き、ある哲学を構築したい、その構築されたデザインの中から、真に良質な音楽が生まれると、思いたい...そう思っている人間からすると、全くの邪魔ものである。 音楽の話を例を出せば、たとえば欧米のバンドに比べて日本のバンドに弱いのは、まず個として突き詰めないところだ。それは人間としての、個の弱さとも言える。個の弱さの原因は、まず、社会と個、という概念の認識が曖昧だから...というより考えようとしない怠慢さから来るもので。それは、こんな、「ナベツネ」問題(というより、「ナベツネに好き放題させてしまう」問題)にもよく現れている。真の意味で勇気がないから、ディクテイター(独裁者)の登場を許してしまう。たとえばこの本に出て来る(しかし当時としてはごく普通な)出世競争にかまけて考えることをやめた人間はすべからく個としての強度がない訳だ。ジャーナリストとしての矜持も、勇気もない。それは今の時代、ある教訓として忘れてはいけないことなのではないだろうか。 個の意識があるからこその集合体としての社会も認識できる...ゆえに社会にグランドデザインが描けるのではないのか。個を意識するから、たとえばファシズムにも対抗できるのだ。日本が戦後60年経ったにもかかわらず、戦争の危機がこんなにも簡単に訪れてしまうのはここに原因があるのではないだろうか。曖昧とか、関係性の中に人間があるとか、日本独特の認識方法がよく云々されるけれども、積極的、戦略的に選び取った ものではないのだから、それを用いて...なんてレベルにまで行って無いのは明白だ。これはイマドキの、「ネオ日本回帰趣味」の若者の恐いところでもある。自分のアタマで考えないから、簡単にムード・ファシズムに流されてしまう...そんな危なっかしさを感じるのだ。 「ブリット・ポップ」の中では「戦略度」が一番強かったブラー。初期の彼等、曲そのものは無骨で洗練されてない単調なものが多いし、さりとてシンプルゆえの深みも味わえないという、誠に聴きにくい音楽という印象だった。かと言って2ndあたりからの3枚はというと、80's New Waveをザッと掬い上げて薄味に料理した感がなきにしもあらずで、結局良い聴き手になれず終いだったが、戦略的あざとさを忘れて、彼等の音楽の多くのつぎはぎ感に目をつぶれば、残る曲はいくつかある。上の曲はまさにそんな、キンクス、マッドネスの系譜に入る曲。アッパー・ミドルのロウアーぶりっこに、反発も出たが、あれほどヒットしたのは、その折衷風味に共感したアッパー・ミドルが多かったからだろう。英国社会の当時の変容を考えれば、まさに、うたは世につれ、という気がする。
by penelox
| 2005-11-09 17:15
| 90年代
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