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Pretoria Quickstep / Microdisney

from compilation "We Hate You South African Bastards!"(1984)

11/23

仕事の移動が大変、風邪をちっとも直さない生徒も大変、英語教えるのも大変...しかし自業自得。好きで選んだ生き方だ。

今日mixiに載せたマイクロディズニーの話。

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とりあえず今、これを聴いています。
マイクロディズニーの、1stアルバム以前、1982年から84年までの音源を集めたレコード。

まだキャーサルとショーンの二人組の時代。
簡素なリズムボックスによるリズムに、淡いキーボード。その上をショーンのアメリカン・タッチのギターが水彩画のように滑って行く。そこに乗る野太くソウルフルなキャーサルの声は、聴き流せる類いのものではない。これらが混じりあい、夢みるように鮮やかな純粋に良い「うた」が生まれ...

それなのに。

最後の曲"Pretoria Quickstep"の意地悪なエンディング。 まるで、夢と悪夢に何の違いがあるかとでも言いたげな無惨なループ。 アマチュアリズムの自然な延長線上にある手作りの温かいポップ感覚を持ちながら、メロディーの良い「うた」を最後に裏切ってみせる彼等。そして、この怒りに満ちたタイトル。こんなややこしいことをする、これぞ、知性と反骨みなぎる、ネオアコースティック。

これをネオアコースティックと呼ばないんだったら、私はあんまりこの音楽ジャンルには関わりたくないというのが正直なところ。

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しかし、"Pretoria Quickstep"とは何であろうか。
プレトリアというのは南アフリカ共和国の行政上の首都である(南アには首都は3つあり、行政上はプレトリア、司法上はブルームフォンテン、立法上の首都は国会議事堂のあるケープタウン、ということらしい)。

で、Quickstepとは社交ダンスのひとつである。
こういうものだそうで。いわゆるチャールストンとかよく言うやつみたいです。とにかく、英国発祥の社交ダンス。

ダンスという言葉は、コステロの歌なんかだと、男女の夜の事の象徴として使われるのだけれど("No Dancing"とか)、社交ダンスというのは政治の比喩だろう。これは確証はないけれど、恐らく利益調整の場たる政治における、手打ちの儀式の象徴として社交ダンスの"Quickstep"という言葉が使われているのだと思う。

Pretoria Quickstep / Microdisney_b0022069_09246.gif帝国主義(注・英国とオランダと書いてましたが正確でないので修正しました)の利権争いに翻弄され続け、白人の支配により91年まで人種隔離政策(アパルトヘイト)が続いていたこの国の事を考えれば(しかもこの曲が出た頃はまだアパルトヘイトを取り続けている時代。ネルソン・マンデラは獄中にあった)、そして当時ラフ・トレードをはじめとする英国のインディー系のアーティストがその南アの政策を非難し続け、作品をリリースしていた事を思い出せば、この曲も何かを示唆しているのは間違い無い。英国に支配され続け「欧州の黒人」とかつて呼ばれたアイリッシュの立場から、ヨーロッパ/白人の罪を遠回しに糾弾、告発しているのだろうか。

南アフリカの歴史についてのわかりやすい説明がこちらにあります。

毎度毎度情けなくて書かざるを得ないのだが、80年代が音楽的に何もなかった、というのは、90年代の音楽業界の新規開拓のために作られた捏造であり、虚像である。完全なデッチアゲ。これが私の前提である。その前提で、80年代半ばというのは、まだまだ解決されていない政治的、社会的問題に音楽がコミットしようとしていた...それも忘れてはいけない要素。それをナイーブなヒッピーイズム崩れと笑うのも簡単だし、今の時代に声を上げる事の難しさもわかっているつもり。だから、単純比較はしたくないのだが。

それでも、インディペンデントな音楽活動、というのを考えてみるに、80年代に彼等(そして当時のアーティスト達)のやった事は興味深い。少なくとも、知的姿勢や社会的不公平、弱者に対する優しい視線があった。簡単に言えば人間への愛情と言おうか。ブッシュ・小泉的強者の論理、差別主義、短絡的な暴力的解決とは違う視点に、もっと勢いがあった。

そこに関しては今より遥かにマシだったし、そんな時代があった事をちゃんと伝えておきたい。中年保守オヤジのまったり空間や思考停止だけがインターネットの使い途ではなかろうから。
by penelox | 2005-11-23 23:59 | New Wave


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