栗原淳インタビュー(2)
ソロ時代 ーネロリーズ解散後、ソロアルバムをリリースされましたよね。それは日本語で、当時の70年代日本語ロックリバイバル的なムードにも合っていると思ったんですが、その後ガンガン行く...って感じでもなかったですよね。少し迷いが出てらっゃるのかなとか、勝手に邪推してましたが、本人的には如何でしたか? ソロを始める前後には、サニーデイ・サービスの影響がありました。彼らのアルバム「東京」がとても気に入っていて、遡るかたちで日本の60−70年代ロックをたくさん聴いていました。はっぴいえんど、はちみつぱい、ジャックスなどです。ソロ一作目は結局サニーデイにも無理言って一部参加してもらい、あとはAsa-Changと作りました。楽しいレコーディングでした。2作目は、冨田恵一さんのプロデュースですが、あれは本当に(悪い意味ではなく)オーバープロデュースというくらいに元曲をアレンジしていただきました。その頃はシュガーベイブみたいな「アーバンロック」もありなんじゃないか、ということになって、そういう方向へ持っていくべく冨田さんにお願いしたわけです。 ソロの2枚は今でもとても気に入っています。ネロリーズのものと比べると、先ほどの質問にあったような、「明確な理想」がありました。もっと売れるとよかったですね。別にお金がほしいというのではなく、売り上げはメジャーレーベルにおける尺度になりますから、売れなかったらもう自分の好きなことはできません。もちろん音楽を続けることはできますが、いろいろと環境が変わってしまうので、前と同じようにはもうできなくなってしまうのが残念です。 ーSolo album discography 月の王(1997) フェイク・ムーン(1998) ー思うに90年代半ばから2000年代初め以降沢山出て来た女性アーティストは、周りのディレクションがかなり大きかったと思うのですよ。才能がどうとかと言う以前に、スタッフが揃ってたもん勝ち、みたいな。だからそういう意味で当時外から見てて、栗原さんもったいないなぁって、思ったものです。 でも、先程のお話(ディレクターやマネージャーのその後)をききますと、ネロリーズや栗原さんの持っていた要素が、ノウハウ(と言うとやらしい言い方ですが)としてこの頃の女性アーティストにずいぶん使われた気がしますね。つまり、栗原さんの持ってる新しさをさらに下世話に応用したのが宇多田ヒカルであり、浜崎あゆみであり、椎名林檎ではないかと...もちろん音楽性は違いますけれども。洋楽への立ち位置とか、女性アーティストとしての新しさとか。要するに(全体的にそうだったのかも知れませんが)「渋谷系」初期の人達の持っていた要素が、そういうスタッフによって持ち去られて、これらのアーテイストに(ある意味口当たりの良い音楽のスパイス、として)使われて行ったというのは、共通してるんでしょうね。個人的にはそれがちょっと悲しくもあります。 もしもっとうまく立ち回ってたらあのへんに負けないぐらいの評価、セールス、あるいはポスト渋谷系的なシンガーソングライターの道もあったんじゃないか...とか思ったりします? すみません、失礼な質問で。そうなって欲しかった、というのではないんです。ただ、時期的に全てが少しずつ早かったのかな、と思ってしまうんです。 ですから、もう少しエラそうにして良いんじゃないか、というのがあるんですよ。こんな風に宣言して欲しい訳です、 私があなたたちの道を作ったのよ、って(笑)。 それは私が自分で言っても仕方のないことだと思います。むしろ渡辺さんが記事にしてこそ意義のあることなのかもしれません。ただ、個人的に、浜崎あゆみなどを見ていて思い当たるフシもあるんです。たとえば私の元マネージャーにプラダとか、ルイヴィトンとか、ブランドイメージみたいなのを教えたのは私だったと思うし、浜崎さんがブレイクした要因の一つは、ブランドイメージだったと思うし。プラダの洋服とか着て雑誌にのってましたよね。彼(元マネージャー)が浜崎さんの担当になったのは本当に彼女がブレイクする寸前でしたので、何か符号するものを感じました。 もともと、早すぎたバンドとかが好きだったので、自分もそうなってしまったと思うことにしています。誰かがのちのち評価してくれればいいと思うし、別に誰も評価してくれなくても構いません。自分自身の人生としては、今のほうが幸せだと思うし、利口になったと思うし、今の仕事も合っていると思うので、過去についてはほんとうに執着がありません。 そして、今 ーまた自分中心で活動しよう、というのはありますか? やっぱり今のご自身による表現というのも聴いてみたいなと思うのです。今、そういう計画、もしくはそれを考えたりすることはありますか? たとえば、ネロリーズを再結成するようなプランはないのですか? 自分のプロジェクトについてはずっと考えています。アイデアを練っていて、メンバーの目星もついているのですが、曲をつくってどんどん前に進んでいく、という段階にはまだきていないみたいです。こういうのはもう、自然に啓示みたいなのがあるのを待たないと仕方ないと思っているので、今はまだその時ではないのかもしれないと思うことにしています。サンフランシスコに来てから、エクスペリメンタルなバンドをしている人達やサウンドアーティストみたいな人達と知り合って、そういうパフォーマンスにもよく足を運ぶので、今までとは違った感じで音楽に影響を受けていると思います。また、現代音楽にも興味が出てきて、たとえばフィリップ・グラスやテリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、モートン・フェルドマンなどの作品を聴き込んだり、かと思えば60,70年代の名盤みたいなものも見直したりしています。キンクスの「アーサー」とか、イーノの「ヒア・カム・ザ・ウォーム・ジェット」、CANの「タゴ・マゴ」とか。ジョン・ケイルのソロ作なんかも常に聴いています。そのへんの影響も、新しいプロジェクトには出るかもしれません。 ネロリーズ再結成については、全く考えたことがありません。第一、あれはもう私のやりたい音楽ではないので、演奏して楽しめるとは思えません。ネロリーズという過去があってよかったとは思いますが、もういちど繰り返そうとは思いません。 ーもしファンの方がどうしてもネロリーズを聴きたい、観たい、ってなったら如何でしょう。一夜だけの再結成とか、そういうのも考えませんか。 今のところは全く考えません。それはまた過去への執着というテーマに戻るわけですが、何しろ執着がないので、もう一回やりたいとも思いません。ただ繰り返しになりますが、ネロリーズをやっていて良かったと思います。 ー最近よく聴く音楽は何ですか? 気に入ってるバンドなど、ありますか? 前の質問で答えたとおり、最近はあまり新しいバンドを聴いていないような気がしま す。あるときは新しいバンドばっかり聴いて、急にやめては昔のレコードを聴きこむ、という波をここ数年は繰り返している感じです。 ー栗原さんから見て現在のアメリカのインディーシーンは如何ですか? 注目すべき動きなどはありますか? 地方差があると思うので一概には言えないですが、サンフランシスコに限って言うと、数年前からエクスペリメンタル全盛という感じでしょうか。その一方、Devendra Banhartみたいな吟遊詩人系の人も人気がありますね。アコースティックな楽器を使ったエクスペリメンタル系もあります。まあ、いろんなシーンがあるのでまとめて言うのは困難ですね。 ー日本人として、アメリカの現状(音楽に限らず)をどう見ていますか? やっぱり、避けて通れない話ですけれど、昨今のアメリカの世界への文化的、経済的、政治的影響度は凄まじいものがありますよね。それに対して、最近では危機感を募らせる向きも世界中で増えて来ています。日本でも、小泉政権になってから、よりアメリカ依存というか、盲従と言われても仕方ないような外交追従が強まって来ていますよね。 で、その一方で、そこでの不満が、中国や韓国に対する反発方向にばかりズラされてる気がします。 サンフランシスコは伝統的にリベラルな街です。ゲイ、レズビアンの人たちが多く暮らしているというのにも現れています。ここにいるとどうしてもリベラル=民主党的思想に影響されるし、アーティストはほとんどリベラル支持ですから、みんなブッシュが嫌いです。 2年前の大統領選挙のときには、やはりアメリカ全体ではいまだ保守なんだ、という事実を思い知らされました。サンフランシスコにいると誰も共和党なんて言いませんから、自分がいかに麻痺しているのかを知りました。 だいたい、ブッシュの大きなミステイク、というか陰謀は、9.11を境に、世界をテロ支持か反テロかの2つに分けてしまったことだと思います。こういうdualismは大変危険ですし、敵対心を招くので、まさに戦争をあおるようなものですよね。 それもこれも保守的反動=西洋中心主義からきているものです。 私は政治的意見は持たないことにしていますが、人文科学的トレンドから見た場合でも、このdualismというのは古い考え方で、すでに70年代にエドワード・サイードをはじめとする人文学者たちが、西洋中心主義に異議をとなえています。 つまるところ、アメリカというのは巨大な保守主義の国だといえます。東海岸の諸州およびカリフォルニアだけが例外で、一つの同じ国だと呼ぶのが難しいくらいだと思います。 とりとめなくなってすみません。 ー私はアメリカの音楽にはもちろん大きな影響は受けていますが、モノを作る立場としてこのあたりで、凄く考えてしまうんです。自己の内面にあるアメリカをどう対象化するか...みたいなところで。アメリカに暮してらっしゃる立場で、アメリカについて日々感じることって色々あると思いますが、もしよろしければ少し教えていただけませんか? 住み始めたころによく思ったのは、自分が日本人(またはアジア人)であることを意識したことが今までなかったなあ、ということです。特にサンフランシスコには非常にいろんな人種の人々がいますから、自分がどういうoriginかというのを話す機会が増えます。今はもう慣れてしまいましたが、最初のほうは抵抗がありました。 アメリカといってもサンフランシスコはかなり特異な街です。たまに違う街や田舎に行くと、驚くことがたくさんあります。 サンフランシスコは住みやすい街なので、私はここが気に入っています。 ー音楽とは関係ないのかも知れないですが、プードルがかなりお好きなようですね。どのような思い入れがあるのか教えて下さい。 犬のなかでは一番好きです。なぜなのかはあまり深く考えたことはないですが、小さいときに初めて飼った仔犬がプードルだったからでしょうか。今も母の家でプードルを飼っています。 ーネロリーズ、そして栗原さんのファンの方にメッセージをお願いします。 いつになるかはわかりませんが、また自分の音楽をつくるときが来ると思うので、そのときにはまた聴いてくださるとうれしいです。 (栗原さん、そしてエドワーズさん、丁寧にご回答下さり、本当にありがとうございました。) Special thanks to Matthew 'Ted' Edwards and Jun Kurihara.
by penelox
| 2006-06-11 23:59
| The Music Lovers
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