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Tantilla - House Of Freaks (1989)


 ハウス・オブ・フリークス。この名前をきいて反応するのは、よっぽどアメリカのインディー音楽に興味のある人なのかも知れない。私にしても、名前こそもう長いこと記憶の片隅に残ってはいたけれど、たぶんカレッジ系でも、特にペイズリーアンダーグラウンドの流れを汲む世代ではないのかな・・・そう思っていた程度で、REMの登場以降大きく増えたアメリカ全土のアンダーグラウンドで活動する多くのアーティストの80年代における数え切れないほどのリリースと同様、とてもその作品を聴くところまで行かなかった。当時は聴きたくてもとても追い付かなった、こんな作品を、いまこそしっかりと聴こうと思っている次第。

 ニューオリンズファンクぽい打楽器のアレンジメントに導かれる中毒性のあるポップチューン"When the Hammer Came Down"を一曲目に配し、英国人ジョン・レッキーによってプロデュースされたこのアルバム(おそらくストーン・ローゼズのあのデビューアルバムと同時期にかかわっているはずである)は、彼等の2枚目にあたるらしく、興味深いことに多くの歴史的発掘で知られるRhinoから出ている。再発専門というイメージのこの西海岸のレーベルから出ただけに、マニアックに知的に、アメリカ音楽の深部を探っている・・・そう予想していたのは間違いではないようだ。所謂ルーツ音楽-フォーク、ブルース、カントリーといった音楽が大きくその底にあるのだが、そこに研究家よろしくただどっぷりと浸かって悦に入っているのではなく、それらを使って再構成し、自分達ならではのポップミュージックにまで高めているところが良い。ベースレスで、ブライアン・ハーヴェイ(Vo/G)とジョニー・ホット(Dr)のふたりだけというまことに変わった編成で、アコースティックなタッチのギターサウンドとよく考えられたリズム解釈、そして大変ポップで上手い曲作りをするハーヴェイ氏による若々しくシャウトするVoがが特徴的。そして、何と言っても、どこかニヒルな佇まいを見せる全体の音像。全体に纏われたブルーズ感覚のせいだと思うが、人の良いアメリカーナ・ミュージックにならず、どこかにバンド名通りの悪魔性というか、南部の音楽の深部に潜むダークな感覚を救い上げようとしている気配がそこかしこに滲んでいる。個人的にアメリカン・サザン・ポップに無意識に惹かれるのはその影の部分ゆえなのかも知れない。たとえば、02 "The Righteous Will Fall"はキリスト教右派としてしばしば問題視される南部バプテスト派の支配について(その支配側の思考プロセス、権力を失う恐怖をシュミレートしたような内容だろうか)、08 "Kill the Mockingbird"はハーパー・リーの小説「アラバマ物語」("To Kill A Mockinbird")へのオマージュなのだそうだ。初期のREMにも感じられたけれど、一聴のどかだがじっくり聴けばどこかに、何百年ものあいだに白人、黒人、ネイティヴアメリカンといった様々な立場の人達を巡る、人種差別、貧困、宗教を巡る対立、そして暴力が生み出した血や汗や悲しみ、怨念、無数の人々の思いが微熱をもって混じりあい、もはや言葉にさえならないような無力感と失望感にとしてその土地に染み付き、その果てと思しき倦怠感が、暑く湿気を孕んだ空気となって立ち上り、まるでマイクロフォンで拾い上げられるかのように音に刻み込まれている・・・ヴァージニア州リッチモンド出身の彼等はそんな南部の空気感を纏いつつも、あくまで客観的な語り手としての立場を崩さず物語を紡いで行く。そんな、60年代後半にアメリカ全土を揺らした左翼的学生運動とある意味地続きの誠実な姿勢がまさに80年代の、まだ極端に商業化する寸前のカレッジ音楽らしくて良い。個人的に、彼等が描く世界がその基底において、私が仕事柄体験することも多々ある日本におけるそういった立場の人々-つまり被差別部落や在日の人々、宗教に翻弄される人々-とオーバーラップすることがあるから、またそういった方面についての本に最近触れることが多いから余計そう思うのかも知れないが、もっとも重要なのは、作られている音楽が決して古びていないスタイル、むしろ当時としては早過ぎたぐらい現代的なところ。今ではホワイト・ストライブスに代表されるような、ある種お洒落な売れ線として消費され尽くしてしまった感もある、変則デュオによるオルタナティヴなルーツ音楽探訪 - 20年前のそんなスタイルのプロトタイプとして、彼等を若い世代に知っていただくのもまた良いかと思う。

 最後に大変残念なことをひとつ。中心メンバーのブライアン・ハーヴェイ氏、2006年1月に地元リッチモンドで起こった連続殺人事件に巻き込まれ、家族全員とともに遺体となって発見されたという。関わっていた犯人達が黒人であることが、この作品で感じられる姿勢、深みを考えると、何より残念な思いに立たされる。合掌。
by penelox | 2008-04-13 23:03 | CD備忘録


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